2015/11/20 トーク
「『セシウムと少女』ってなんなの?」
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才谷遼(ラピュタ阿佐ヶ谷館主、本作監督) |
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大槻貴宏(ポレポレ東中野支配人) |
『セシウムと少女』ポレポレ東中野での上映開始から1週間、同じ映画館経営者でもあり、かたや新人監督、かたや上映を決めた映画館の支配人であるお二人ですが、そうなるまでの紆余曲折が面白かったので、チラシ一面にも大槻支配人の言葉を載せさせて頂きました。それを回収する意味でもトークイベントを企画させて頂いたのですが、正直ポレポレ東中野勤務で本編のアニメ制作もしている自分が個人的に二人の話を聞きたい(見てると面白いから)という理由も少なからずありました。しかし、トークは現代における自主映画制作、ミニシアター事情、ひいては日本が抱える問題にまで話が及ぶものとなりました。著名な方がいらしたそれまでのトークには、監督が大勢のスタッフを連れてカメラで記録していたのですが、今回だけは丸腰で来たために記録が撮れなかったので、ここに記載させて頂きます。
レポート 梶原由貴子
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大槻 「僕試写かなり早めに行ってるんですけど、映画美学校に観に行って、いや、正直面白かったんだよ。ほんとに。」
才谷 「良かったですね。」
大槻 「あ、ありがとうございます。笑」
才谷 「いやいや、良かったってのは、僕もね、初めて監督したんだけども、映画って、ほんとにもう、色んな人の力ですよね。
何かこう、自分の力で作ったっていうよりも、もうみんなが作ってくれたという様な感覚があるんでね。」
大槻 「あ、それはすごいね。僕、てっきり才谷さんが一人でもう全部バーッてやってったのかなぁって思ってた。」
才谷 「いやもう全然。実を言えばね、このTOKYO POP(アニメーションパート)の所ももう“私たちの好きにやらせて―!”みたいな感じで。笑」
大槻 「で、なんて言ったの?良いよって?」
才谷 「うん。初め、“えー”って言ったんだけども、まぁいいかって。笑」
大槻 「映画制作自体は、そういう感じで?」
才谷 「うん。」
大槻 「脚本は、どうやったの?」
才谷 「脚本は僕がもう、書きましたけども。」
大槻 「それについて、意見はあったの?」
才谷 「あのね〜、照明の山川さんていう大御所の方が照明やってくれて、“やぁ〜、参加してほんとに良かった。
撮影してる時こんな映画になるとは思わなかった。普段はこんなことないんだけどもね。”って。」
大槻 「それはいい方向に行ったんだよね?」
才谷 「そんな感じですね。」
原発事故の劇映画を作ったワケと現実
大槻 「僕がね、あれを観て、好きだっていうのは、チラシの裏面にも書いたんだけど、震災があって、原発のああいう事があって、
ポレポレ東中野は割とドキュメンタリーをやってるところで、震災の映画とかもやってるんだけれど、どこどこの人が被害者で、
こういう言い方をしたら良くないかもしれないけれど、かわいそうという様なのがちょっと感じられるものが割とあって、
才谷さんのこの映画が割とね、東京の人たちも俺たちも被害者だってことを言ってるじゃない。
僕はそこの一点がほんとに好きだったんですけれど。笑」
才谷 「いや、ほんとにそうだと思うんですよね。あ、それとね、僕はずっと映画が好きで、こういう仕事(映画館経営、アニメーションの学校運営)を
やってるんだけども、自分はドキュメンタリーよりは、劇映画、フィクション側の人間だという風に自覚しててね。
有るものを映すんではなくこちらの作ったもの、こちらの思いみたいなものを出していくのが劇映画なのに、ドキュメンタリーではこうやって
ほんとに沢山の原発映画ってのができてるんだけどもね、なんで劇映画の人たち、フィクションの側の人たちが何もしないんだろうっていう
のがずーっとね。
だって、作り手だったらそれしないとダメだろうみたいな事があるのに全然誰もやらないってのがこれはやっぱりおかしいぞってのがあってね。
で、とにかくこれはやるしかないなっていうのでまぁ、そんな感じなんですよね。」
大槻 「でね、僕がそこで最初観て、“やんない?”って言われて。まぁそれはかなり軽い感じで言ったと思うんだけどね。笑」
才谷 「いや、本気で言ったんだよ。笑」
大槻 「軽い感じだと思って断ったんだけど、笑 この噛み合わなさが良いよね。笑 ただね、チラシとか、リリースとかを見たんですよ。
そしたら、そこの部分が、無かった気がしたの。」
才谷 「・・・うん。」
大槻 「で、僕は、なんだか分からない映画だよね?ポスターとか見ても、なんだか分からなくて。
なんだか分かんない映画を”なんだか分かんない映画です。”って出しちゃったら、僕はちょっと違うよねって思ってて、
だから僕がやりたいと思ってお願いした時に、ビジュアルと文章をこっちでやらせてくれないかっていうこと、
多分それだけだったと思うんですけれど。それをこっちのみんなで考えて作って来たっていう感じなんだけれど、
で、話戻るんだけれど、才谷さんの話じゃなくって、なんでフィクションは作られないんだと思います?」
才谷 「これもう、非常にシンプルです。フィクション作る所に全部、原発マネーが下りてるから、それだけなんですよね。
ある俳優さん、時たま呑んでるんですけど、お願いしたいと思って電話したら、“おぉいいよ〜。ようやく君映画作るんだよね。
でもまぁ、一応事務所あるから事務所通して。”って言うんだけども今回、事務所の方から本当に丁寧な断りの・・・。
でも僕は本人がオッケーしてるんですよ?って、何度も食い下がったの。
そしたら“じゃぁ、ハッキリ言いますけれどもうちが契約してる顧問の相談役が中部電力と契約してまして、その人に相談したところ、
今回は止めた方が良いだろうと。それと、あなたも御存知のように、彼はノンポリということで、こういう作品には出ることはできません。
あなたもお友達だったら、その辺も考えて下さい。”って。」
大槻 「あー、なるほど。今才谷さんが言ったのは割と大きい規模の映画はってこと?」
才谷 「劇映画がって言うことですね。というのはですね、色んな役がありますから、僕以外はプロのスタッフがね、全部現場の中に入ってますから、
色んなプロダクションに連絡をしてって言う時に、みんな断られました。というのも基本的にはみんなテレビで食べてますよね。
テレビで食べてるということは、テレビは電通博報堂から入って来てる訳ですよ。そうすると日本ではさ、付き合ったらダメじゃなくて、
こういうのに出たら?っていう、もう忖度して。だからですね、他の役者さんの事務所のマネージャーに連絡した時もね、
初めはもうつっけんどんでね、初めての監督だし、無名だし、低予算だから、つっけんどんな感じだったんだけどね、
断ってくる時はもんのすごく丁寧。気持ち悪い程。」
大槻 「それは、才谷さんが政治的な方で、何か言われるってことを恐れて?」
才谷 「いや、シナリオですね。『セシウムと少女』っていうこのタイトルも。
現場でね、制作過程も含めてね、現場の人、劇映画を作ってる人たちも一体じゃあこんな映画作って大丈夫かとか、
こういう作品だったら自分は協力できないとかいうのがほんとに沢山あったんです。
で、あぁ、劇映画で原発を扱ったものは撮れないってシステムが出来上がってるなっていうのを感じたんで、じゃあやっちゃえっていうことで、
だから役者の人たちも、テレビで食べてない人たち、そうすると、芝居の人たちですが、“別に俺たちテレビで食べてないよ。”
って言う様な形で協力してくれたと。」
大槻 「あの主演の女の子」
才谷 「は、オーディションです。ラッキーでしたね。あの子が来た時、“彼女でいけるな”ってみんな思いました。」
原発事故へのストレートな怒り
大槻 「で、(ポレポレ東中野での上映を)断った時、って何回も言ってあれなんですけど、笑 リリースを見てそれが書いてないっていうことと、
あとこれ結局僕たちも被害者だっていうことって、なんでしょうね、いわゆる倫理的に正しいかって言われると、なんとなく、
自分が倫理的だと思ってる人であればあるほどクエスチョンが出るというか、そんな気がして、そこをどう伝えるのかな?
っていう風に思ってたんですよ。お客さんとかこれから観てくれる人に。」
才谷 「僕はとにかく、今からお母さんになる人とか、若い女の子がね、このままで本当にいいんだろうかっていう。で、実際ね、京都と大阪で少し
やって貰ったんですけどね、その時“実はあの事故の後息子に異変を感じたので東京から大阪の方に来てます。”
“東京のどちらからですか?”って聞いたら“光が丘です。”って。あ、間違ってなかったなって。
そういう人たちがいっぱいいるんですね。それが全然声になってない。拾ってないっていうのは、これちょっとおかしいんじゃないかなっていう。」
大槻 「一番最初にここでやった時に、才谷さんがフィクションっていう話をしてね。結局その世界って誰も描いてなかったじゃない。
原発の事故っていうことを誰も描いてなかったじゃないっていうのがあって、事故後っていうのは設定としてよくあるけれど、
それ自体というのが多分今まで描かれてなかったんじゃないかっていうのがあって、それで撮ろうと?」
才谷 「事故後もいくつかね、あるんだけれども、基本的に、なんか、ストレートに怒ってないなっていう。
ほんとにね、当たり前なんだけどもね、これだけひとつの県に当るところに住めなくなる様な状況を人が作って、誰も責任取ってないとか、
誰一人糾弾されてない、逮捕されてないということ自体が異常じゃないですか?で、異常なのにさらにそれをまた進めようとしてるっていう
この国自身が僕は、3.11以降SF的な感じにもう入ってるという気がしてて。で、それに対して映画人、この場合はフィクションを作っている
人たちってのは何をやってるんだろうって。何もやってないな、みんなって。逆に大丈夫かっていう。」
大槻 「まぁそうだねぇ・・。それがあって多分ドキュメンタリーの方が撮られやすいっていうのはあると思うんだけれどね。」
才谷 「今回カメラやってくれた加藤さんって、黒澤組の人なんだけど、“黒澤さんが生きてたら怒ってたよなぁ。”とか、
それから宮崎(駿)さんは怒ってるとか意思表示しているけども、でも作品としてはね、もう引退だから、
僕みたいな人間でもやらざるを得ないのかなっていう。」
大槻 「怒りを、映画を観せる時に伝えようってのは思ってた?オレは怒ってるんだということを。」
才谷 「思ってました、勿論。思ってたんですが、それを本当に怒ってるとか言うタイプじゃないというか、僕は元々岡本喜八監督の『肉弾』観て、
映画って捨てたもんじゃないなって思ったタイプなので、『肉弾』を高校生の時観た時も、観てる時はそれなりに楽しく見たけれど、
でもあの、ラストシーン。骸骨になって、“バカヤロー!”って叫んでるアイツみたいな。
なんかちょっとそういう気持ちが僕はこの映画作ってる時にもありましたね。
でも表現としては、観てる内はこうゲラゲラ笑いながら観てたという。でもそういう映画が今ほんと無いなって。」
公開後の生々しい話
大槻 「これ、どれぐらい入ってたんですか?お客さんは、4月の末から。」
才谷 「えっと〜、3000人まで行きません。なので、あんまりいい成績じゃないと思うんですよ。」
大槻 「地方とかってのはどう?」
才谷 「地元が大分なんですね。大分では頑張って800弱売ったんで、それなりの数字には大分はしたかなぁって。」
大槻 「へー、すごいねぇ。なんだろうな、結局フィクションを作る他の人たちと違って、才谷さん、今の話を聞いてみると、多分あれでしょ?
赤字になるとか関係無いでしょ?」
才谷 「・・・え?いや、いや・・・笑」
大槻 「いやいや笑、関係あるっていうのは半分あるのは分かってますよ勿論、経営者なんだから。」
才谷 「ただ単にね、怒りを表明するだけでは駄目なので、やっぱり作品にしないと意味が無いなっていうんで。
で、作品にするのにこんなにお金がかかるとはちょっと思ってませんでした。初めは低予算でね。笑」
大槻 「いや、フィクションはやっぱり、なんだかんだでかかっちゃいますよ。」
才谷 「どんどん請求書とか、これはこの位かかりますとかいうのが。笑
で、今回僕は現場初めてだったので、一応現場の要求するものは基本的に全部オッケーしようということでやったので。」
大槻 「へー。全体でいくらぐらいになったの?」
才谷 「現場の費用が3000万ぐらいですかね。初め1300万ぐらいでスタートしたんだけどすぐ駄目だっていうので。それで、アニメーションが1000万。」
大槻 「で、全体で3000万かかってあの新宿駅のねぇ、でっかい看板が幾らだったっけ。ごめんねお金の話ばっかり。笑」
才谷 「あれね、280万かかりました。」
大槻 「すごいんだ。4〜5000万くらいかかってんじゃない?」
才谷 「だから4000万で、広報配給経費みたいなやつで大体7〜800万ぐらい使ってますよね。」
大槻 「5000万ぐらいなんだ。で、3000人。笑」
才谷 「え?え?え?うん。」
大槻 「聞こえないふりしたのかと思った。笑」
才谷 「やばいよね・・・。」
大槻 「笑 いや、でも、いいんじゃない?今までの話聞いてたら、それでいいんだと思えたけど。
だって怒りをちゃんと怒ってるって言うだけではなくて、別の形で伝えることが出来て、まぁ数は多くないのかもしれないけれど、
そこでいいんじゃない?」
才谷 「それとね、完成の0号の時僕観て、“これ、いい作品だよなぁ”って。自分で思いました。笑 あぁ、こうなったんだって。」
大槻 「あ、それが一番いいと思う。」
才谷 「いい作品じゃないかって、僕んとこの制作の人間たちでね。でも身内だけで言ってても仕方ないんで、初号試写を大泉でやったんですけど、
関係者がこう観て、関係者のみんなが握手求めて来てね、みんな良かったって・・・。」
大槻 「まぁ大体そういうもんですよね。笑」
才谷 「あぁ、そういうもんか・・。笑 や、それでね、なんかちょっと幸せな気持ちになったのかな。作品としてはこれ大丈夫かなって。
でも、そこからが大変でした。公開に向けてね。お客さん入れるってこんなに大変なのかって。」
大槻 「まぁ別の戦いになりますからね。それはね。」
才谷 「もうこうなると、戦いだと思ってまして。」
大槻 「ほんとそうですよ。」
才谷 「セシウム3部作というのを、やろうと思ってますので。」
大槻 「あ、そっちの戦いなんだ。笑 こうなった以上はやった方が面白いんじゃないかって思うけどね〜。陰ながら応援しますよ。笑」
才谷 「いや〜、それとね〜、これだけでっかい問題とテーマが目の前にあるのに誰も手を付けないっていうのはこれなんか、
ものすごい勿体ないっていうかね〜。」
大槻 「勿体ないってあると思いますよ。ほんとに。」
才谷 「あまりにも巨大すぎるテーマだから。でも、作家が作家を放棄することかなぁって僕なんか思うんですよね。なんで、ちょっと、及ばずながら。」
大槻 「いやー、でもやっぱフィクションって結局再現ドラマを越えなくちゃしょうがないから、だからこういうのを作ったってのは僕はすごく納得してるし、
よかったなぁって思ってますけど。あともうちょっと宣伝を白くまくんと頑張って下さい。」
才谷 「はい、わかりました。どうも、ありがとうございました!」
大槻 「ありがとうございました。」 |
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