マスターズ・オブ・カット Vol.1
日本映画を斬った男
映画編集者・浦岡敬一の世界

山田洋次、大島渚、寺山修司、深作欣ニなど・・・
日本映画の巨匠たちと格闘した映画編集者の全仕事に迫る


浦岡敬一(うらおか・けいいち)

1930年生まれ
1948年、松竹に入社。浜村義康に付き、小津安二郎監督作品などの編集助手を務め、1958年「人間の条件」(監督:小林正樹)で一本立ち。「馬鹿が戦車でやって来る」(監督:山田洋次)、「青春残酷物語」(監督:大島渚)、「黒蜥蝪」(監督:深作欣ニ)などを手掛ける。1969年、松竹を退社後、「愛のコリーダ」(監督:大島渚)、「復讐するは我にあり」(監督:今村昌平)、「ウルトラマン」(監督:実相寺昭雄)など、幅広い作品を担当する。1983年「東京裁判」(監督:小林正樹)で芸術選奨文部大臣賞受賞。1989年、「帝都物語」(監督:実相寺昭雄)、「優駿 ORACIO’N」(監督:杉田成道)で日本アカデミー賞優秀編集賞受賞。この間、日本映画編集協会の設立に尽力し、初代編集協会理事長を務めた。



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映画編集とは何か?
「マスターズ・オブ・カット」とは?
 日本映画・テレビ編集協会 理事長:井上治

今、日本映画界は混沌の中にあります。かつて撮影所システムが生み出した様々な技術的蓄積が、次の世代へと受け継がれる場を失いつつあるからです。一方で、若い映像制作者たちによるデジタルの映画制作は急増しています。しかし、技術的伝承がされていないため、自分がつくりたいものを、思い通りにつくれず苦しんでいる若いクリエイターが存在するのも事実です。
特に、編集については、誰もが簡単にパソコン上で映像をつなぐことが、“編集の本質”というものを見失う結果を生んでいます。誰でも編集が可能なったからといって、誰もが編集者ではないのです。だからこそ、「映画編集とは何か」について考えてみる機会が求められているのです。
そこで、日本映画撮影所黄金期から活躍し、多くの傑作名作を支えてきた日本を代表する優れた映画編集者たちを取り上げ、その仕事の全貌に迫る特集上映を企画しました。≪マスターズ・オブ・カット≫と題し、その第一弾として浦岡敬一氏を取り上げます。彼こそ最も「映画編集とは何か」を語るに相応しい人物の一人です。大島渚らの松竹ヌーヴェルヴァーグにはじまり、小林正樹、山田洋次、深作欣二といった名匠たち、また寺山修司、実相寺昭雄ら独立系の作家と闘いながら、自らの編集理論を貫いてきた、文字どおり「日本映画を斬った男」なのです。
浦岡編集の技術、理論を、シンポジウムを含め、彼の言葉と共に検証します。きっと映像制作を志す若いクリエイターには影響を与えるでしょう。また、編集という違った視点からの新しい映画体験を皆様にお約束します。
編集とはフィルムの「演出」だ
マスターズ・オブ・カット実行委員会

−映画監督の脇で指示を仰ぎフィルムを切る技術者−これが、多くの人が持つ「映画編集者」の印象ではないでしょうか。確かに絵コンテに沿って撮影されたカットを順番につなぐことは編集という作業の行程の一つです。しかし、編集者のアイディアでシーンやカットの順番をちょっと変えてみるだけで、全く違った意味を生み出すこともできます。
つまり編集とは、ただ単にフィルムを切ってつなぐという「作業」ではなく、撮影されたフィルムという「素材」を使っての「演出」なのです。
具体的には、膨大な映像素材を整理し、脚本を熟読し、再構築する。細かい1コマ2コマのつなぎを追求することでドラマに合ったリズムを創り出すのです。映像だけでなく、現場音、効果音といった音も編集の重要な要素です。サスペンスをより盛り上げるため、より深く感動させるため、撮影されたフィルムと録音された音という「素材」を使った「演出」なのです。
当然、その演出方法は、編集者個々によって異なります。経験に裏付けされた編集者各々の「演出(=編集)」理論があり、このカットが何故その位置にあり、そのコマ数なのかを彼ら自身は論理的に説明することが可能なのです。それがその編集者のスタイルなのです。
そこには、経験に裏付けされた編集者各々のセオリーがあり、このカットが何故その位置にあり、そのコマ数なのかを理論的に説明できるのです。
「人間の条件」で初めて編集を手掛けた1959年を浦岡氏はこう振り返ります。撮影の宮島義勇に「僕は撮るだけで、後はあなた次第で作品が決まるわけです」、小林正樹監督からは「シナリオ3回くらい読んだだけで俺の映画が繋げるか!」と言われ、その時、自分は編集への勇気と覚悟をもらったと。このエピソードが編集という役割をよく表しているのではないでしょうか。非常に大きな責任が伴うと同時に、創造的な仕事なのです。


「映画編集の現在を問う!」
 現在の映画の根本的見直しを図る画期的試み 
山口 猛

今、なぜ浦岡敬一、名編集者の作品を取り上げるのか。それにはここ数年急速に広まったデジタル化の波を考えなければならない。おかげで誰でも苦労せずに撮影が出来るし、編集に至ってはノンリニア編集が一般化し、アナログのシネテープは駆逐されようとしている。
だが、操作さえ分かれば誰にでも出来ることは、誰にでも出来ないと同義であることに皆そろそろ気付き始めている。
浦岡氏は1コマ、1/24秒のずれさえ見逃さない小津安二郎の修羅の目を、屈指の映画撮影理論家だった宮島義勇からはフィルムを切る自由を一身に背負い、一癖ある監督とミクロの世界で、時には大胆にカットを入れ替え、闘った。
だが、最初の観客でもある編集者の行為は全て作品への奉仕であり、研ぎ澄まされた感性の刃を持った浦岡氏の華麗な作品群との出会いは、はからずも私たちの今日の映画のあり方を見直すことにもなるだろう。


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<協賛>(株)IMAGICA,(株)玄光社,コダック(株),デジタルムービー工作室,(株)東京現像所,日本映画学校,(有)万永,富士写真フィルム(株),報映産業(株),ポレポレタイムズ社
<企画>日本映画・テレビ編集協会,マスターズ・オブ・カット実行委員会<企画協力>ポレポレ東中野〈協力>アップルコンピュータ(株),ローランド(株),中川研一,山口猛

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