台湾アイデンティティー

かつて日本人だった人たちが語るそれぞれの人生
2013年/日本/カラー/HD/102分

公式サイト

<スタッフ>
監督 : 酒井充子

製作総指揮 : 菊池笛人 小林三四郎
企画 : 片倉佳史
プロデューサー : 植草信和 小関智和

ナレーター : 東地宏樹
撮影 : 松根広隆
音楽 : 廣木光一
編集 : 糟谷富美夫
協力 : シネマ・サウンド・ワークス 大沢事務所
製作 : マクザム 太秦
助成 : 文化芸術振興費補助金
配給 : 太秦


© 2013マクザム/太秦
<解説>             
彼らが求めた居場所とは
戦後70年の道のり
台湾、ジャカルタ、そして横浜へ
東日本大震災の際、台湾から200億円を超える義援金が寄せられたことは記憶に新しい。一方、日本から台湾へは昨年(2012年)、過去最高の約144万人が訪れた。台湾を訪れる日本人の多くが台湾に日本の面影を見るという。なぜなのか?それは台湾の田園風景や各地に残る日本統治時代の遺構によるところが大きいであろうが、何よりも台湾の人々がそうさせるのだ。
台湾は1895年(明治28年)から1945年(昭和20年)までの半世紀、日本の統治下にあった。日本語で教育を受けた「日本語世代」といわれる老人たちは、単に日本語を話すだけではなく、その精神性や行動パターンに至るまで全身に「日本」が染みついている。彼らへのインタビューを通して台湾と日本の近現代史をクローズアップさせた『台湾人生』(2009年)から4年、戦後70年という長い年月が過ぎ、日本語世代と呼ばれる人々は少なくなった。それでも、ある種の「日本人性」を包含している彼らは、今も台湾で存在感を失ってはいない。彼らの人生、特に日本が台湾を去ったあとの道のりとはいかなるものだったのか?

本作は、第二次世界大戦、二二八事件、白色テロという歴史のうねりによって人生を歩み直さなくてはならなかった6人が、それぞれ自らの体験を語ることにより、日本人が知らない台湾の戦後の埋もれた年月を突きつけている。
日本が戦争に負けたことで「日本人になれなかった」と言う人、台湾に帰れなかった人。旧ソ連に抑留されながらも、そのおかげで二二八事件に巻き込まれずに済んだと笑う人。白色テロによって父親を奪われた人。青春の8年間を監獄で過ごさねばならなかった人。「本当の民主主義とは」を子供たちに伝え続けた人。彼らが口にする過去の体験は、修正できない歴史を背負っているが故に、重く切実だ。
敗戦により日本が撤退した台湾では、その後の蒋介石・中華民国国民党政権による言論統制と弾圧の時代が長く続き、国民の声は封殺されてきた。民主化が本格化したのは李登輝氏が総統に就任後、1992年(平成4年)に治安法を改正し言論の自由が認められてからのことで、それからまだ20数年しか経っていない。
「現在」を語り、「未来」を考えるうえで重要になるのは「過去」だが、その過去を正確にとらえるのは難しい。歴史は「特殊例外的」な事件のみを記し、人々の葛藤を記録しないからだ。本作は舞台を台湾、ジャカルタ、そして横浜へ移しながら、市井の老人たちの人生に寄り添う姿勢を貫く。
登場人物たちの生き様に「日本人性」を認めるとき、彼らの人生が写し鏡となって、台湾を顧みようとしてこなかった戦後の日本の姿が浮かび上がってくる。その時、我々日本人は改めて日本という国を見つめ直すことになるのだ。




<監督プロフィール>
酒井充子

1969年、山口県出身。
慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、北海道新聞記者を経て2000年からドキュメンタリー映画、劇映画の制作、宣伝に関わる一方で台湾取材を開始する。
小林茂監督のドキュメンタリー映画『わたしの季節』(04)に取材スタッフとして参加。台湾の日本語世代に取材した初監督作品『台湾人生』(09)に続き、2013年春に『空を拓く-建築家・郭茂林という男』を完成させた。
著書に「台湾人生」(2010年、文藝春秋)がある。
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