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<キャスト>
林由美香
ユ・ジンソン
入江浩治
キム・ウォンボギ
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カンパニー松尾
いまおかしんじ
平野勝之 |
柳下毅一郎
中野貴雄
野平俊水
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柳田友貴
横須賀正一
華沢レモン |
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<スタッフ>
監督 : 松江哲明
プロデューサー : 直井卓俊
編集 : 松江哲明、豊里洋
構成協力 : 向井康介
撮影 : 松江哲明、近藤龍人、柳田友貴
音楽 : 豊田道倫
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挿入曲『ほんとうのはなし』(唄:川本真琴)
『さよならと言えなかった』(唄:豊田道倫)
製作:『あんにょん由美香』フィルムパートナーズ
制作・配給・宣伝:SPOTTED PRODUCTIONS
配給協力:インターフィルム |
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「松江君、まだまだね。」
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<解説>
2005年に急逝した女優・林由美香の全記録をまとめた書籍『女優 林由美香』によって、彼女が主演した謎の韓国産ビデオ作品が発掘された。作品名は『東京の人妻 純子』。林由美香の生前にきちんと仕事をする機会を得られなかったドキュメンタリー監督松江哲明は「すごく間違っている」けど「何だかキューと」な同作品に惹かれ、その謎を追うべく取材を開始する。同時にかつて林由美香の代表作を撮った3人の監督(平野勝之、カンパニー松尾、いまおかしんじ)らと撮影現場を訪れ、林由美香の幻を追う松江。やがて林由美香と一本のビデオを巡る冒険は、日韓の国境を越え、元来出会うはずのなかった人々を巻き込み、全く新たな物語を作り上げてゆく…!
前作『童貞。をプロデュース』が記録的な大ヒットとなった松江哲明が3年間に及ぶ制作期間を経て、渾身の最新作を完成させた。人気ミュージシャン・豊田道倫が音楽を手がけ、川本真琴をヴォーカルに起用し、松江の「想い」をバックアップ。愛され続ける女優・林由美香、奇跡の最新主演作がここに誕生した! |
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<監督コメント>
「想い」は現実を創るのだ。 松江哲明(『あんにょん由美香』監督)
2006年夏に企画書を作ってから3年が経った。始まりは韓国産エロ映画「東京の人妻 純子」。韓国人が一生懸命日本語を喋って演技をする様に笑っちゃいけないと思いながらも、お腹が痛くなるほど爆笑したのだが、由美香さんは「いつものように」演技を続けていた。「スキナンダロ!」と絶叫する夫に抱かれ、「ジュンコチャン」と微笑む水道局員にキスをし、恋人との別れ際では本気で涙を流していた。
間違った日本描写も含めてトンデモな内容だけど、決して手を抜かない由美香さんが映っていた。僕は「16年間こうして仕事を続けて来たんだろうな」と思った。そして一本でも由美香さんの作品を見たことがある人なら、きっと同意してくれるはず。
学生時代、由美香さんに自作を見てもらい、言われた言葉は「松江君、まだまだね」だった。内容がヘボっちいことは当時も分かっていたけど、心にグサッと来た。「あの」林由美香さんに出てもらいながらもこんな程度の作品しか残せなかった自分が悔しかった。と同時に「いつかちゃんと」と心に誓った。
それから何度かイベントで一緒になったり、お酒を飲んだり、「オロオロしないの」と怒られたり、「たまもの」の予告編を作ったことで「ありがとね」と言われるようなお付き合いがあったけど、僕の中では「まだまだ」がずっと残っていた。
そんなことをグダグダ思っている間に由美香さんはあっちの世界へ行ってしまった。僕にとって初めての身近な人の死、だった。
そして「もう由美香さんとは作品が作れない」と分かり、悔しくなった。なんでもっと早く由美香さんに「見て下さい」と渡せるような作品を撮れなかったのか、「出て下さい」と言えるような企画を思いつけなかったのか、結局、僕は由美香さんにとって「まだまだ」のままじゃないか。
「純子」と出会ったのは、亡くなって一年が過ぎた頃だった。僕は大笑いしながら「なんで由美香さんはこの作品に出たんだろう」と思った。「誰が作ったんだろう」とも思った。そして「これらの疑問を由美香さんへの返答にしたい」と。
一本のVHSテープを何度も見返し、情報を集めようとしたものの、7年前に作られた韓国のエロ映画について分かりっこない。僕は「こうだったんじゃないか」と妄想した台本を作ったものの、現実が「そんなもんじゃない」と頭を叩く。きっと由美香さんは「余計なことバラすんじゃないよ」と怒っていることだろう。台本を捨てた。書いてくれた向井君に謝った。彼は「仕方ないよ」と言ってくれた。とにかく記録することから始めた。
僕に出来ることはカメラを回すことだけ。演出をする余裕なんてない。7年前のことを思い出してくれた「純子」の出演者たちからは「何でいまさら」と笑われたが、それぞれの人生に「純子」は痕を残していた。ウソみたいなホントの数々に「まるで由美香さんみたいだな」と思った。ウソとホントがどっちでも良くなって、ただセキララに生きる、そんな現実。「まだまだね」と言うからにはそれなりの深みがあったのだ。
最初のインタビューを撮ってから丸2年が過ぎ、沖縄で「やっと撮り切れた」と思ったものの、僕と由美香さんの距離感が見えず、編集が進められなかった。これまでの由美香さんの作品にあった共犯関係が結べていないような気がした。そこが抜けたまま作品を完成させていいものか、と悩んだ。つまり、作品を語るべき主語が見つからなかった。
そんなことをまたもグダグダと思っている間に肉親や友人が由美香さんのいる世界へ行ってしまった。
もう、考えるのはやめた。素材をもう一度見返す。「誰かが記憶している限り、人は亡くならない」「映画は麻薬だから」「誤摩化すような真似するなよ」という言葉に後押しされた。その時、ふと「由美香さんからいっぱい、ステキな人を紹介してもらえたな」と思った。僕が感じた出会いと発見とハラハラドキドキを隠さずに繋げばよかったのだ。
本編中の平野さんの言葉を借りると、僕は「あんにょん由美香」に「これまでの技術を全部ぶち込んだ」。映画で生きると決めて10年間、全ての技術を。ドキュメンタリーという手法で現実を演出し、ドラマを作り、観客と共犯関係を結ぶ、それが僕にとっての映画作り。
しかし、技術はあくまでも技術でしかない。作品を観客に届け、動かすのは「想い」だ。
僕は「あんにょん由美香」でそのことを強く実感した。映画のラスト、出会うはずのない人たちが出会い、新たな物語を作った時、由美香さんにまた会えた。ウソじゃない。そこに由美香さんはいなかったけど、彼女を想う人たちが集まったことで、カタチになった。
「想い」は現実を創るのだ。 |
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<監督プロフィール>
演出・構成:松江哲明(まつえ・てつあき)
77年生まれ。東京都出身。99年日本映画学校卒業制作として『あんにょんキムチ』を監督。国内外の映画祭に参加し、山形国際ドキュメンタリー映画祭アジア千波万波特別賞、NETPAC特別賞、平成12年度文化庁優秀映画賞などを受賞。その後OV『ほんとにあった! 呪いのビデオ』シリーズ、『カレーライスの女たち』、『セキ☆ララ』を発表。近作『童貞。をプロデュース』、『あんにょん由美香』が相次いで大ヒット。吉祥寺の街をステージにミュージシャン・前野健太を74分1カットで撮影した最新作『ライブテープ』が東京国際映画祭2009「日本映画・ある視点部門」で作品賞を受賞するなど、今、最も注目されている若手作家。著書に「童貞の教室(よりみちパン!セ)」等があり、「映画秘宝」「映画芸術」では映画評を発表している。
林由美香(はやし・ゆみか)
1970年6月27日・東京都生まれ。
1989年よりアダルトビデオ、ピンク映画に出演しはじめる。活動の場はオリジナルビデオからインディーズ映画にまで及び、その存在感と独特の魅力で多くのファンを獲得。映画製作者からも大きな信頼と評価を得る。1994年と 2005年にはピンク大賞女優賞を受賞。主演したNHKのドラマ『日曜日は終わらない』が2000年にカンヌ映画祭に出品、2004年には主演映画『たまもの』がフランクフルト映画祭、チョンジュ映画祭にて上映され、国際的にも注目される。
2005年6月26日、自宅にて急逝。享年34歳。 |
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