ヒミコさん
Lady Himiko

“僕だって、欲求不満で爆発しそうなんだよ。でも、君とは生き方が違う。
僕が生きるのは、こんなところじゃないはずだから。
そんな時、あの人が現れたんだ……。
2007年/ビスタサイズ/カラー/上映時間88分/DV/ステレオ

 公式サイト

 予告編@youtube

〈出演〉
宮川ひろみ
園子温
高橋洋
吉行由実
田野辺尚人
辛酸なめ子

切通理作
渋谷拓生
武川寛幸
酒徳ごうわく
ギンティ小林
〈スタッフ〉
監督 藤原章 ( 『ラッパー慕情』『神様の愛い奴』)

プロデューサー:しまだゆきやす
音楽:Drムロとサイコヒデとヒロちゃん(ex.地球楽団)
製作:『ヒミコさん』製作委員会
配給・宣伝:イメージリングス
<ストーリー>
[第一部]
時は1982年。人々は一見安穏とした日常を送っていた。そんなある日、石油コンビナートがヘドロを垂れ流す薄汚れた地方都市、石川県泥亀市赤松町で、町内をパトロールしていた町内会長・吉田勝利(高橋洋)は、意外な人物に出会い驚愕する。それは、まだ少女の頃にこの街を出て行き、立派な大人の女性となって戻ってきたヒミコさん(宮川ひろみ)だった。「お久しぶりです、会長」「ヒミコさんじゃないか、またこの街に戻って来たのかね?」
何気なく交わされる会話。しかし、その平静さの裏側に、ドス黒いオトコの情念の炎が、ある過激な地下組織の鉄の掟が、メラメラと燃え上がろうとしていることに、誰一人気づく者はいなかった。その頃、泥亀市にある紅工業高校野球部のエースピッチャーのムカワ(武川寛幸)は、三年生最後の夏を迎え、甲子園出場の夢を抱いて日夜グラウンドで白球を追いかけていた。しかし、そんなムカワには心配事があった。女手一つで自分を育ててくれた母里子(吉行由実)の体調が思わしくないのだ。一刻も早く入院させたいが貧乏な母子家庭のムカワ家にはその入院費用がなかった。ある日、ムカワは道で、見たことのない美しい女性とすれ違う。後輩のコバヤシ(ギンティ小林)、ケン(酒徳ごうわく)の二人にその美女のことを尋ねるが、彼らは知らないという。しかし、後輩ケンの言葉にはウソがあった。実は、ケンは学校帰り、その謎の美女に出会って後をつけてみたところ、恐るべき爆破テロの現場に遭遇してしまったのである。首謀者の女性は逃亡していたが、それこそが、あのヒミコさんであった。謎の美女のことを噂し合う野球部三人組の目の前に、元広島東洋カープの強打者であり、巨人の桑田から満塁サヨナラホーマーも放ったことがある男、山田(園子温)が現れる。プロ野球選手だった山田は、ムカワの憧れの的であったが、麻薬に手を出して球界を追放され、いまや廃人同然の暮らしをしていた。少年の夢を壊されたムカワは山田とイガミ合う。そんな時、ヒミコさんが現れ二人の仲裁に入った。ヒミコさんは、何事も暴力では解決しないとムカワを諭し、野球部の地区予選大会を応援に行くことを約束する。突然のマドンナの登場に狂喜する野球部三人組。しかし、そのマドンナの存在を快く思わない女性がいた。野球部のマネージャー、マリッペ(宇高志保)である。マリッペはエースのムカワに恋心を抱いていたが、恋愛オンチのムカワにはそれが理解できなかった。一方、里子を診察した医師田所(切通理作)は、その病状が深刻なものであることに気づく。初めは貧乏一家の面倒をみることを渋っていた田所医師であったが、ムカワが甲子園に出て金のタマゴになるかもしれないと知ったトタン、高額治療費の援助を申し出る。ますます県大会で優勝を目指さねばならなくなったムカワは、その日から地獄の特訓を始める。苦しいながらも、将来プロ野球選手となって成功した自分の姿を夢見るムカワ。引退後はハワイで悠々自適な生活。ガーリーなスポーツ記者(辛酸なめ子)からの取材にも余裕で答える度量の大きなオトコ、それがムカワが妄想する未来の自分だった。しかし、そんなムカワの心の拠り所、紅工業高校野球部のマドンナ、ヒミコさんは、地区大会予選が始まる前に、また突然、街から姿を消してしまうのであった。

[第二部]
ヒミコさんが消えて一ヶ月が過ぎた。ツキを無くした紅工業高校は地区大会予選で敗退。ムカワは野球をあきらめ、就職を迫られることになる。傷心のムカワだが、母里子の病状が快方に向かっていることだけが慰めだった。田所は思いのほか名医だったのだ。そんな頃、県警組織犯罪対策課のラーメン刑事(渋谷拓生)は、一ヶ月前に起きた過激派による爆破テロ事件を捜査していたが、その犯人がかつての憧れの女性ヒミコさんであったことを無職の先輩(頭山貴明)から知らされる。一方、街から突如姿を消したそのヒミコさんだが、実は、謎の魔女モガー(真魚八重子)にさらわれ、地下の牢獄に全裸で監禁されていたのだった。目を覆いたくなるような恥ずかしい陵辱の責め苦がヒミコさんに加えられる。魔女モガーは、なんとかしてヒミコさんを「エッチな気分」にさせようと、マンションに偽装した秘密組織の科学装備やバーチャルリアリティ装置などを総動員してイヤラシく迫るが、たとえ生まれは不幸な孤児のサーカス育ちでも、心が純真で汚れのないヒミコさんは、欲情する代わりに心が洗われるような美しいポエムを朗読してモガーの心を揺さぶる。ヒミコさんの汚れなき心におのれの負けを悟ったモガーは、ついにその意外な正体を現す。そして、すべてを清算するべく秘密アジトの自爆スイッチに点火するのだった。果たして、ヒミコさんの運命は? ムカワの運命は? 母里子の運命は? 野球部員たちの運命は? 壮大な石川県泥亀市赤松町サーガが、いまここに大団円を迎えようとしていた!!!
<解説>
 世間からこぼれおちたダメ男兄弟三人がたどる悲惨な運命を、一切の感傷や慰めを排して描くことで、逆説的に“涙無くしては観ることが出来ない”珠玉の青春映画『ラッパー慕情』を世に送り出した〈天才映画監督〉藤原章が、今度は時代に合わせて調子よく生きることのできない負け組人間たちへの愛を、ハッピーエンドを希求しながらも、けっして痛ましい現実から目を逸らすことなく、力強く描き切ってみせたのが、この最新作『ヒミコさん』である!
 時は、ほんのちょっとだけノスタルジックな1982年(昭和57年)。舞台は架空の街「石川県泥亀市赤松町」。現実には存在しない場所にもかかわらず、その風景、建物、住民たちの姿は、なぜだかアナタの胸をしめつける切ないデジャヴを引き起こすだろう。そう、この街はけっして映画にありがちなオシャレな都会ではなく、心癒す田舎町でもなく、かつてアナタが生まれ育ち、そこから逃げ出そうと身悶えた、あの冴えない「故郷の街」そのものである。この泥亀市では、誰もが爆発しそうな欲求不満を抱え、深刻な病を胸に秘めている。「もっとちがう世界」が、「もっとちがう自分」が、「きっとどこかにあるはずだ」という心の病を。
 そんな街にある日舞い戻ってきた謎の美女ヒミコ。彼女の秘密を握る怪しい町内会長、麻薬の所持で球団を追われた元プロ野球選手、患者を不安に陥れる医者、やたらと拳銃をぶっ放す警察官、甲子園を目指す純情な高校球児、ガーリーなスポーツ記者……いかにも藤原作品らしいクセのある登場人物たちが、スクリーンせましと縦横無尽に暴れまわる。そして、その先に待ち受ける驚愕のクライマックスに、きっとアナタは笑い、涙するだろう……。
 主人公のヒミコさんを演じるのは、前作『ラッパー慕情』で大胆なオールヌードも披露した魅惑の個性派女優・宮川ひろみ。一方、ヒミコさんとの間に謎めいた過去を持つ町内会長に『リング』シリーズの脚本家で「Jホラーブームの生みの親」である高橋洋。元広島東洋カープの強打者でありながら一時の過ちで球界を追われた男、山田に『自殺サークル』『エクステ』などの奇才映画監督・園子温。ヒミコさんに初恋に似た感情を抱く紅工業高校野球部のエースピッチャー、ムカワに新人の武川寛幸。その母里子に『D坂の殺人事件』などの吉行由実。里子の主治医、田所に文化評論家の切通理作。そして、ムカワを優しく見守るスポーツ記者役で人気エッセイストでありマンガ家の辛酸なめ子が映画初出演!まさに異色かつ豪華なキャストが集まった。
<監督プロフィール>
藤原 章(ふじわら しょう)
1965年、兵庫県生まれ。
8ミリ処女作『決闘』(78)を皮切りに、70年代カンフー映画に多大な影響を受けた痛快な短編アクション映画を連発し、80年代のぴあフィルムフェスティバルにおいて園子温、平野勝之らと並んで大きな注目を集める。
ブルース・リーをはじめとする香港映画に対する思い入れと博識から町山智浩に誘われ「映画秘宝」(洋泉社)などの映画ムック誌に文章やイラストを寄稿するようになる。長らく自主映画のフィールドで活動するが、98年に出獄後の奥崎謙三を追ったドキュメンタリー『神様の愛い奴』の制作に参加。最終的に監督を勤める。
2004年には1年がかりで完成させた『ラッパー慕情』(03)がアップリンク・ファクトリーで劇場公開(配給イメージリングス)され話題を呼ぶ。同作はDVDとしても発売された。その後「刑事まつり」シリーズにも参加、『寿司デカ』(03)を監督している。
[主な監督作品]
『人糞作戦』(1980/8mm)、『米屋』(1988/8mm)、『天国平和ラッパ』(1990/8mm)、『神様の愛い奴』(1998/ビデオ)、『マダムソーラン』(2001/16mm)、『ラッパー慕情』(2003/DV)、『寿司デカ』(2005/DV)
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