『かすかな光へ』


人と人、人と自然とを結ぶ
無縁社会、不安と混乱の時代 私達は何を手がかりとして生きていくのだろう
―――93歳の教育研究者・大田堯の挑戦
(C)
2011年/84分/DV/4:3/カラー/日本/ドキュメンタリー


公式サイト

<スタッフ>
監督 : 森康行

音楽 : 林光

詩 : 「かすかな光へ」
    作・朗読 谷川俊太郎

ナレーション : 山根基世
朗読 : 津嘉山正種ほか
撮影 : 西島房宏、前川光生、
      川越道彦、野間健、梅林國男

編集 : 古賀陽一
音響効果 : 八重樫健二
録音 : 東京テレビセンター 宮澤二郎、深山郁磨
配給 : ウッキー・プロダクション

製作・著作 : ひとなるグループ
<解説>
ふと我にかえると、現実は無機物に囲い込まれた荒涼たる世界を、愛に飢えた人影がバラバラに生きている。そういう風景が幻のように見えるのです。私はその現実の中に垣間見えるかすかな光への道を手さぐりで求めようとしました。それは夢のようなもの、あこがれにすぎないのかもしれません。でも、そのあこがれ、夢なしには私にはどう生きるかの手がかりを見出すことはできないのです。その手がかりを見つけるために、私は自然から預かった生命という摩訶不思議なものに注目してみました。(大田堯著「かすかな光へと歩む」より)

題名の「かすかな光へ」は谷川俊太郎の同名の詩から名づけられた。また、この詩の朗読は詩人自ら行っている。
音楽監督は、「裸の島」「一枚のハガキ」(新藤兼人監督作品)など、多くの映画音楽をてがけている林光。監督は、高知の高校生の平和学習を記録した「ビキニの海は忘れない」(1990)、「渡り川」(1994)、夜間中学を記録した映画「こんばんは」(2003)など、青春と学びを描いてきた森康行。編集は、森の21年前の監督作品すべてにかかわっている古賀陽一が担当した。
 
<ストーリー>
教育とは命と命のひびきあい 創造活動・アートなんです
<story1>【挫折したエリート】
一兵卒として体験した戦争。そこで待っていたのは36時間の生と死が交錯した漂流。生きる力を試されたジャングル生活。生活に根ざした知恵と力を身につけた農民兵、漁民兵などの労働者との出会い。ズタズタにされたプライド。「俺は一体、何のために生きているんだ!」

<story2>【再生へ】
敗戦直後、さまざまな職業の住民参加の中で取り組んだ“民衆の学校”づくりとその挫折。そして、自ら働く人たちのなかに飛び込んでいった共同学習―それは村の「不良青年」と生活を共にし、学ぶことを通して、初めて心と心が通った学習体験だった。

<story3>【無縁社会と呼ばれるなかで】
社会も教育の姿もガラリと変わった高度経済成長時代―国を被告とする家永教科書裁判、そして、人間の絆が断ち切られる孤独化現象。大田堯の人生は戦後と真正面から向かい合っていく。そのなかでつかんだ教育とは、「教え育てる」という従来の教育観を根底から覆すものだった。そして大田はいま、自然の摂理にそった生命あるものの絆の再生をめざす。

<コメント>
学校の教師や子を持つ親、そのすべての人たちに見てほしい映画です。
山田洋次(映画監督)

ちがっているということに生命の特徴がある、関わりの中に生命がある―――など、
すばらしい言葉があってハっとさせられる。それが学習・教育だと思った。
若者にも、高齢者にも観てほしい作品である。
小山内美江子(脚本家)

文明や経済に気をとられることなく、人間の正体を見つめ直すことから、
教育をはじめなければならない。それをいま痛感する。
ジェームス三木(脚本家)

三十余年前、当時文部省の裁判担当者として被告側の席に坐っていた駆け出し役人のわたしは、家永教科書裁判の法廷で大田先生の毅然とした証言に、密かに感動した。
わたしが教育行政の中で「生涯学習」から世に言う「ゆとり教育」への流れを推進する原動力になったのは、学習あってこそ教育は成り立つという思いだ。
そう思ったわたしは、表に出ない勝手な押しかけ弟子? 
この映画を観て、改めて大田先生とお目にかかりたくなった。
ここにあるのは戦前から戦後への教育の歴史。21世紀の今、現在それがどうなっていて、震災と原発事故を経験した今、未来にそれがどうなっていくべきか…伺いたいことは多い。
日本の教育に関心がある者、必見。
寺脇研(元文部省官僚・映画評論家)

あの3.11後の日本だからこそ、この映画は特に私たち庶民の心に光を灯してくれます。
原発事故の後だからこそ、なにが一番大事なのかを気づかせてくれます。
軍隊のように行進させて、競争させて、国家の役に立つ人間や国家に都合のいい人間をつくる教育ではない学び。
人間ひとりひとり、子どものひとりひとりを最も一番に考えていくのが本当の教育なんだ!
原発よりも電気よりも、先ずは人間!その人間が生きるための様々な生物とこの地球、そして宇宙を含めた自然界。
それらに学び・・・思わず全ての他者に「ありがとう」と言いたくなるような、そんな映画です。
松元ヒロ(コメディアン) 
<プロフィール>
大田堯
教育研究者。東京大学名誉教授、都留文科大学名誉教授。日本子どもを守る会名誉会長。東京帝国大学文学部卒業。東京大学教育学部教授、日本子どもを守る会会長、都留文科大学学長、日本教育学会会長などを歴任。専攻は教育史、教育哲学。93歳の現在も、講演や執筆にエネルギッシュに取り組んでいる。広島県出身。
主な著作「かすかな光へと歩む」(一ツ橋書房)、「教育の探求」(東京大学出版会)、「教育とは何か」(岩波新書)、「地域の中で教育を問う」(新評論)、「子は天からの授かりもの」(太郎次郎社)、「生命のきずな」(偕成社)「子どもの権利条約を読み解く」(岩波書店)ほか多数。
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