ドキュメンタリー映画
「小三治」

人間・柳家小三治、そのひととなり…
35mm/ビデオ/104分


<出演者>
柳家小三治

入船亭扇橋

柳家さん八

柳家小里ん

三遊亭歌る多

桂ざこば

立川志の輔
小三治一門
 柳家〆治
 柳家喜多八
 柳家はん治
 柳家福治
 柳亭燕路
 柳家禽太夫
 柳家一琴
 柳家三三、
 柳家三之助
 柳家ろべえ
 柳亭こみち
桂米朝

ピアニスト 岡田知子

語り 梅沢昌代
<スタッフ>
プロデューサー 安西志麻  米山 靖

監督/編集    康 宇政

撮影      杉浦 誠
録音      米山 靖
構成協力    伊勢真一
支援      文化庁

ドキュメンタリー映画「小三治」上映委員会
 株式会社オフィス・シマ
 有限会社ヒポコミュニケーションズ
<解説>
人間・柳家小三治、そのひととなり…

スポーツで言えばバイクにスキー。それでいて音楽好きのオーディオマニア、それが嵩じて自らも声楽にチャレンジ。カメラやAV機器には一家言があり、食へのこだわりは人一倍。

のめり込んだものは数知れず、一度、凝り出したらトコトンまで突き詰めなければ、気が済まないのが小三治師匠。

「趣味や遊びだからこそ真剣に取り組まなければ面白くない」

生真面目な性分からか、惹かれたものには、基礎からミッチリ取り組み、精進と工夫を怠らない…。

取材を続けるなかで落語を離れた時に、噺家ではない“人間・柳家小三治”の人間臭さや本音をカメラの前で見せてくれる瞬間があります。

本編では、上野・鈴元演芸場での『歌ま・く・ら』で趣味の歌に夢中になって出来、不出来に一喜一憂する。そんな時に窺い知れる、人間・小三治師匠の人となりから伝わります。

それは、気難しそうな姿とは裏腹に、どこか永遠の少年であるかと思えるほどの純粋さであり、「常にまっすぐな眼でものを見つめる人」であること、それをひしひしと感じさせてくれます。

小三治落語の魅力である噺の本題前にふる“まくら”は、そんな人間としての深さから醸し出されたもの。

そのネタは多岐に渡り、聞く人々を感心させ、笑を誘い、てらいもなく万華鏡のように人を楽しませる…。この作品の随所には、そんな“人間・小三治師匠の魅力”が散りばめられています。

これは“記録を残すのが嫌いな人”を“記憶するドキュメンタリー映画”

趣味を通した人間の幅の広さだけでなく、この作品では小三治師匠自身、日々精進していく姿を追いました。

師匠は言います。
「笑わせようと思って噺をすると、決して良い噺はできない」

まるで禅問答のようですが、欲や私心を忘れて噺に向き合える境地でないと、小師匠がいう“良い噺”にたどりつかないのでしょう。

小三治師匠の“噺”がはじまると、まくらの時のフランクな雰囲気とは打って変って、師匠と観客の呼吸がピタリとシンクロし “会場に不思議な一体感を醸し出す”。

「落語の筋は江戸から明治、大正を経てスッカリ完成されていて、元々が面白く出来ているもの。それを如何に自分の“噺”としてモノにしていくのか、これが難しい…」

ひとかどの噺家となった今でも、新境地に臨むことを怠らず、いまだに新たなネタを下ろしに苦悩する小三治師匠のうしろ姿。

笑いを生み出すために日々、葛藤を重ねる噺家さんたちはさぞかし厳しい修行を重ねていくもの…。かと思えば、小三治一門は稽古をつけることがありません。

小三治一門の気風は「教えて覚えさせるのではなく、芸を身に付ける。」

楽屋裏で垣間見せる一門の様子は、一見すると何気なく見えても、そこには師匠の端々からこぼれ落ちる“教え”を学び取ろうとする修行の場。

弟子たちの立ち振る舞いが、いい加減だと、ボソッとたしなめる。

一門の長たる小三治師匠は、自分の姿を弟子たちに焼き付けることで「人として大事なもの」を教えようとしているように写ります。

作品の中には不振に悩むお弟子さんもあれば、真打へと羽ばたいていく新進気鋭のお弟子さんもいます。

そんな弟子たちを親の眼差しで見つめる小三治師匠ですが、柳家三三さんの真打披露の口上で悩み、
そして師匠自身も先輩噺家・桂米朝師匠から学ぶ場面もあり、ラストシーンの噺「鰍沢」は圧巻!

落語と格闘する噺家の“ひたむきな姿”を描き出したドキュメント映画です。
<監督コメント>
【邂逅】  しばらく会わない人に、思いがけないところで会うこと。 めぐり会い。

私がまだ中学生の時、NHKの番組にエキストラで出演したおり初めて出会ったナマの噺家、それが柳家小三治師匠でした。
 
私は落語なんかテンで興味を持っていなかったのですが、スタジオの袖で拝見していて、子供ながらに“落語って、こんなに面白いんだ”と初めて体感した瞬間でした。

 ひょんな縁があって、柳家小三治師匠に引き合わせて頂き、TVに出なくなった理由を尋ねてみると「寄席を大事と考えTVの出演は控えている」と噺家の気構えが伺えるお答え…。

そんな小三治師匠が時折、口にされるのが、「元々、私は自分の落語の記録を残すのが嫌な人なんです。噺家なんて、どんどん変わっていくものですしね。」

そんな師匠が、上野・鈴元で『歌ま・く・ら』というリサイタルをする際、「歌を録音してくれるかい」とのお話があり、「折角なら映像も一緒に撮りましょうか?」とお願いしたところ、快く承諾。その撮影が切っ掛けとなりプライベートな場面から、高座の楽屋裏、あちこちの地方公演にも同行し、気が付けば雲霞の如くつきまとって、3年半。

ひとりの名人と呼ばれる噺家・小三治師匠の心のうちを、見つめたドキュメンタリー映画が完成しました。

ディレクター 康 宇政
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