「シアトリカル」

彼らの汗を、網膜に焼きつ けろ! 彼らの声で、鼓膜をふるわせろ! 彼らの涙で、脳髄 を痺れさせろ!

2007/日本/102分/カラー/ビデオ
 
公式サイト

 予告編@youtube

<スタッフ>
監督 : 大島 新

プロデューサー: 於保佐由紀

製作: 柏井信二

脚本・構成: 大島 新

撮影: 桜田 仁
編集: 斎藤淳一
音響効果: 金田智子
EED: 池田 聡
AD: 高木 創
助監督: 堀越 俊
宣伝: 伊藤麻衣子
製作・配給: いまじん 蒼玄社

<出演>
唐 十郎

鳥山昌克    久保井研     辻 孝彦     稲荷卓央
藤井由紀    赤松由美     丸山厚人    多田亜由美
高木 宏     岡田悟一     気田 睦     野村千絵
大 美穂     土屋真衣     大鶴美和子   大鶴美仁音   大鶴佐助

     
<ストーリー>
彼らの汗を、網膜に焼きつ けろ! 彼らの声で、鼓膜をふるわせろ! 彼らの涙で、脳髄 を痺れさせろ!
唐十郎アトリエ。
高円寺純情商店街を抜け、15分ほど歩いた
中野区大和町の住宅地の一角に、その場所はある。
90年代以降、プロデュース公演が主流となった演劇界で、 いまでは存在自体が珍しくなった「小劇団」の稽古場だ。

2006年11月。 「劇団唐組」の座長である唐十郎は、二階の書斎に篭っていた。 向かいにある自宅から、身ひとつでやってくるのは朝6時。 春の公演に向けた戯曲を執筆しているのだ。 表紙には「行商人ネモ」のタイトル。 A4サイズのノートにびっしりと、蟻が這ったような小さな文字で書かれた戯曲が 劇団員たちに配られたとき、唐組の芝居作りが始まる。
14人の劇団員たちは、全員が俳優でありながら、制作・美術・照明・音響など、 舞台製作に関わるすべての仕事をこなす。 さらに、宴会や普段の生活でも座長の様々な要求に応えなければならない。 新年会、新人オーディション、「行商人ネモ」の40日に渡る稽古、 寝る間を惜しんでのセット作り、大阪での旅公演、紅テント設営と合宿生活・・・ ひとつの芝居が出来上がっていく過程を、しつこいほど丹念に追った撮影テープは180時間。 カメラは、唐と劇団員たちの凄まじいとしか言いようのない芝居への情熱をとらえた。
<解説>
1967年、新宿の花園神社で行われた紅テント公演で、演劇界に衝撃を与えた天才劇作家・唐十郎。その革命的な劇世界は、同時代を生きた寺山修司や蜷川幸雄はもちろん、つかこうへい、野田秀樹ら後に続く世代にも有形無形の影響を与えた。そして、唐以外の演劇界の巨星たちが、変化を求めより大きな舞台で活躍していくなか、唐だけが紅テントにこだわり続けた。自らを「偏執狂」と呼ぶ唐が、彼らと決定的に異なる点は、ほぼ毎年1本新作戯曲を書き続けていることと、劇団という形態を維持し続けていること。40年前に27歳だった唐が、67歳になったいまも目をキラキラさせながら舞台に立つ姿は、まさに偏執狂の真骨頂である。

40年の間に世の中は変わり、演劇の形態も客の嗜好も変わった。60・70年代に時代の最先端を走った状況劇場は、80年代末に劇団唐組に姿を変えたが、90年代には一部の理解者を除いてなかなか評価を得られなかった。それは、バブルを経た日本社会が、わかりやすさや軽さを求めた消費者(=観客)に迎合していく時代の必然だったのかもしれない。しかしそうした風潮への反動からか、21世紀に入り唐十郎再評価の動きが高まってきた。2004年の「泥人魚」による演劇賞総なめをはじめ、2006年には唐個人として読売演劇大賞芸術栄誉賞を受賞。さらにここ数年、他の劇団や演出家による唐戯曲の上演が相次いでいるのだ。だが、そんな世間の評価や関心とは無関係に、唐十郎は常に唐十郎であり続けた。そしてただひたすら、唐の頭の中で進化と深化を続けているのだ。
既に十分過ぎるほどの名声を得ながらも、唐が芝居をやめる気配は微塵もない。そして還暦をとうに過ぎた今も、紅テントの舞台で意気揚々と水につかり、泥まみれになりながら、長台詞をとうとうとまくし立てる。それは「芝居をすることが生きること」とでも言わんばかりの、壮絶な姿である。

そんな唐のもとに集う劇団員たちは現在14名、平均年齢30歳。 最年長で44歳、最年少は22歳。唐にとっては子ども、あるいは孫の世代だ。 彼らは唐の芝居に身を捧げる修業僧のような生活を続けている・・・ それは俳優としての修業であると同時に、座長という圧倒的な存在のすべてを受け入れる修業でもある。 演出家・鈴木忠志は唐演劇を「おさな心の発露」と評したが、まさに唐の「おさな心」は、舞台上のみならず様々な場面で発揮される。知らない人が見たら「めちゃくちゃだ!」と思うことは日常茶飯事。時にやんちゃな子どもになる唐を、劇団員たちは影に日向に支えている。もちろん辛いときもある。金銭的にも決して恵まれてはいない。ついていけずに辞めていった仲間も数え切れない。だが、今も劇団に残る彼らは「おさな心」を持つ自分たちの座長が好きで、また何より、唐の書く芝居を紅テントの舞台で演じたくて、修業を続けているのだ。 格差社会と呼ばれ、経済至上主義が蔓延する時代の波とは全く無縁に、信じた道を走り続ける唐十郎と若者たち。どこまでもシアトリカル(=劇的)に、演じ、語り、怒鳴り、笑い、炸裂する!

<プロフィール>

唐十郎
1940年生。1964年、劇団「状況劇場」を率い、劇作家デビュー。
1967年、新宿・花園神社で紅テント公演を行う。以後70年代にかけて状況劇場の大ブームが起きる。状況劇場出身の主な俳優は、李麗仙、磨赤兒、根津甚八、小林薫、佐野史郎ら。1970年「少女仮面」で第15回岸田國士戯曲賞受賞。作家としても活躍し、1983年「佐川君からの手紙」で第88回芥川賞受賞。1988年、状況劇場を解散、劇団唐組を設立。2004年「泥人魚」で第38回紀伊國屋演劇賞・第7回鶴屋南北戯曲賞・第55回読売文学賞を受賞。2006年、読売演劇大賞芸術栄誉賞受賞。

大島新
1969年生。1995年、早稲田大学第一文学部卒業後、フジテレビ入社。ディレクターとして「ザ・ノンフィクション」「NONFIX」など、ドキュメンタリー番組の演出を手掛ける。
1999年、フジテレビを退社、以後フリーに。毎日放送「情熱大陸」で「唐沢寿明」「寺島しのぶ」「美輪明宏」「唐十郎」などを演出。本作が劇場公開映画第一回監督作品。大島渚監督の次男。
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