追悼のざわめき
松井良彦 監督作品 デジタルリマスター版

80年代インディペンデントの極北、魂のハードコア・ファンタジー、
前衛は神をたずさえて甦る。
2007年|日本|モノクロ|HD|150分

公式サイト

<出演>
佐野和宏

大須賀勇(白虎社)

日野利彦(人力飛行機舎)

(声)松本雄吉、他 
仲井まみ子



白藤茜


隈井士門



皆渡静男
村田友紀子



高瀬泰司

<スタッフ>
監督・脚本 : 松井良彦

製作 : 安岡卓治 
製作補 : 山本希平 
演出補 : 佐々木宏 

録音 : 浦田和治 
編集 : 高島健一、緒方達也、鐘門律知、佐々木宏 
音楽 : 菅沼重雄、上田現 
音響効果 : 本間明 
特殊メイク : 松井祐一 
スチール : 浅田具茂 

撮影 : 手塚義治、村川聡、井川義之 

協力 : 白藤茜、維新派、白虎社 
配給 : 安岡フィルムズ 
配給協力 : 東風




<ストーリー>
小人症の主人公たち、兄にレイプされ死にいたる少女、
愛ゆえ、その妹を食む兄。
舞台は、猛々しいヤクザが支配する
大阪のアンタッチャブルな<真空地帯>・・・、
あからさまな差別や偏見にまみれ、
閉ざされた苦境の中で懸命に生きようとする者らの絶望と破滅。

大阪・釜ヶ崎、若い女性たちの惨殺事件が続発する。被害者たちは下腹部を切り裂かれ、その生殖器が持ち去られていた。犯人は廃墟ビルの屋上で暮らす孤独な青年、誠(佐野和宏)。彼は「菜穂子」と名づけられたマネキンを愛し「愛の結晶」が誕生することを夢想していた。次々に若い女性を惨殺し、奪った子宮を「菜穂子」に埋め込み、そして、愛した。やがて彼女に不思議な生命が宿りはじめ、様々な人間が廃墟ビル=「魔境」へと引き込まれていく。現実の街並みは、いつしか時間感覚を失い、傷痍軍人や浮浪者など、敗戦直後を思わせるグロテスクなキャラクターが彷徨しはじめる。純粋に二人だけの世界で生きていた幼く美しい一組の兄と妹(隈井士門、村田友紀子)。かれらもまた、「菜穂子」がいる廃墟へと導かれてゆく。幼い妹は「菜穂子」に「母」の面影を見る。兄は、その姿に激しく「性」を感じる。そのとき、廃墟ビルに引き込まれた人々に残酷な運命が訪れる……。

<イントロダクション>
80年代インディペンデントの極北、魂のハードコア・ファンタジー、
前衛は神をたずさえて甦る。

松井良彦が脚本に描いた寓話は、暴力と差別の残忍な描写にあふれていた。交錯する憎悪、愛を切り裂く性、どん底のさらなる深層をゆく絶望。その映像をイメージすることはできても、映画化は不可能。故・寺山修司をして、「映画になったら事件だね」と言わしめた。しかし、『狂い咲きサンダーロード』(80/石井聰亙)、『闇のカーニバル』(81/山本政志)、『ゆきゆきて神軍』(87/原一男)、といったアナーキーな作品群を生み出した80年代インディーズ映画の神がかり的なエネルギーがこれを作品に結実させた。1985年に完成した本作は、同年、トリノ国際映画祭に出品を予定されながら、イタリア税関でストップ。86年には香港での日本映画祭に招待されながらも、同じく税関ストップ。88年、公開に先立つ試写ではすでに賛否が激しく対立した。映画誌「イメージフォーラム」(88.6月号)では、おすぎが「とにかく汚らしい」と吐き捨てるようにののしる。同人誌「シネマ・エデン」では、本作を19回見た編集者・三谷みどりが「私は『追悼のざわめき』になりたい。」と恍惚としたオマージュを書きつづった。88年5月28日、公開初日、“中野武蔵野ホール”は超満員となった。しかし、開映後20分を過ぎたあたりから、気分を悪くした観客が続々と席を立ちはじめた。あるものは「この映画を観たことを不幸に思う」と囁いた。また、映画を見終えたあるものが言う、「悲哀と美しさの入り混じった不思議な映画だった」「涙がでた」と。「最低!」と「最高!」、交錯する反響が伝説のカルト・ムーヴィーを産み出した……。

これはリバイバルではない。さらに鋭く、美しく、
デジタルリマスターとしての暴力的な 再生である。

撮影開始から28年、公開から23年、聖地“中野武蔵野ホール”閉館から7年…。かつて、『追悼のざわめき』が描いた寓話が、今、現実のものとなっている。親殺し、子殺し、兄妹殺し…。不幸にも、時代が映画に追いついてきた。『追悼のざわめき』は過去のものではない。今日の現実に潜む、やみがたい狂気へのレクイエム、究極のハードコア・ファンタジーとして甦る。バージョンは、傷だらけの16ミリフィルムではなく、ニュープリントからのHDテレシネ。音響はオリジナル音源からのデジタルリマスター。さらに、ミュージシャン・上田現が書き下ろした楽曲が追加される。現実の音はさらに生々しく、グロテスクでイリュージョナルな場面はよりファンタジックに・・・。あの鮮烈な描写が、耐え難いほど鮮明なハイビジョン映像とデジタル音響で襲いかかる。
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