吉田喜重 変貌の倫理 前夜祭
9月10日(金)19:00開映  当日1000円均一

「吉田喜重 オペラ『マダム バタフライ』と出会う」
一夜限りの特別上映!


ゲスト 吉田喜重監督 + 岡田茉莉子さん

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上映作品  「吉田喜重 オペラ『マダム バタフライ』と出会う」

1993/56分/ビデオ作品/(日本初公開)
1994年ユネスコ・アートフィルムコンクールグランプリ受賞作品
リヨン・オペラ座における吉田喜重演出「マダム・バタフライ」のメイキング

制作 セビア・プロダクション
監督 オリヴィエ・ホルン
撮影 ムーラ・シェフェ
出演 吉田喜重 ケント・ナガノ 中丸三千緒

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オペラ『蝶々夫人』上演のための演出コンセプト  文:吉田喜重


 古典としてのオペラの魅力は、それぞれの時代によって内容が新しく読み取られ、読み返されることにある。
 世紀末的なキッチュと異国趣味に彩られたプッチーニの『蝶々夫人』にしても原型のまま上演されれば、時代錯誤的なストーリーの印象だけが残りかねない。
 しかしそれを遠い彼方の異郷からきた異人との結婚譚として、神話のレベルで読み返すこともできるだろう。
 第一幕は華やいだ結婚、若い生命が充ちあふれる祝祭の場である。第二幕は反転して、立ち去った異人の夫を思うあまり、マダム・バタフライは狂乱に陥る。そしてふたたび帰ってきたピンカートンは、マダム・バタフライの病める心が描く妄想の人物であったのかもしれない。
 夫が新しい妻を連れて帰ってくることを恐れ、嫉妬するマダム・バタフライ。愛するわが子はすでに死亡しており、そうした悲しみをかたくなに拒絶する女は、死んだわが子の身がわりの人形を愛し、あたかも生きているかのようにかき抱く。
 神話が見事に成就するためには、ヒロインはみずからの死を受け入れなければならない。第一幕が生命が躍動し、限りなく華やいだ祝宴であれば、それとは対照的に第二幕は狂気の果てに死が待っている。
 その時プッチーニのオペラは「狂乱のマダム・バタフライ」として読み返され、われわれとともに生きる同時代の作品としてよみがえってくるだろう。
 舞台はあくまで同時代であることが意識されるように作られる。時代は戦前の日本に始まり、やがて呪われた戦争を経験、長崎の街もまた原爆投下によって崩壊する。その荒涼とした長崎の風景は、「狂乱のマダム・バタフライ」の心の風景と重ねあわされて、いっそう悲劇性を高めるだろう。
 その時音楽は新たに吹き込まれた情念の歌をうたい、限りなく優しい抒情性に充ちあふれることだろう。


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