「里山っ子たち」公開記念
「桜映画社特集 桜映画はしなやかである」



予告編@youtube

この度、ポレポレ東中野では正月映画『里山っ子たち』の公開を記念して、53年の歴史をもつ映画製作会社・桜映画社の特集上映を行います。
 1955(昭和30)年に設立した桜映画社は、第一作『さようなら蚊とはえさん』から家庭生活・保健衛生をテーマにした記録映画を制作し続け、それらと並行して制作されていた児童劇映画では、『海ッ子山ッ子』がベネチア映画祭サン・ジョルジュ賞を受賞するなど、華々しいスタートを切りました。
 1964年には『アメリカの家庭生活 三部作』を完成させ、その後もヨーロッパ・アジア・中南米の国々への海外取材映画、それらの国との合作映画など、現在に至るまで国際的な映画づくりを続けています。
 1970年代の桜映画社は文化映画で他の追随を許さないプロダクションと呼ばれ、芸能・美術・工芸・伝統習俗など、さまざまな文化映画の傑作を生み出しました。
 その後も、医学映画、産業映画、科学映画など、多くのジャンルの作品を制作し、1981年の『八十七歳の青春』からは長篇映画の制作でも成功を収めています。
 また、もう一つの柱として岡本忠成、杉井ギサブローらを起用した作家性豊かなアニメーション作品も制作し続け、2005年の話題作・川本喜八郎監督作品『死者の書』も記憶に新しいところです。
 今回は800を超える桜映画のフィルモグラフィから、選りすぐりの88作品・全36プログラムを上映します。
<桜映画社>
桜映画社という会社は、教育映画、科学映画、美術映画などの分野で長年にわたってすぐれた仕事をつづけてきた名門である。それらの映画は一般の映画館で上映される機会が殆どないため、ふつうの映画ファンはあまり知らないが、映画として非常に質の高い作品が少なくなく、国際的な有力な賞を受けている作品も多いし、学校教育やサークル活動や海外での日本文化紹介などに活用されて、目立たないが重要な役割を果たしてきた。
―佐藤忠男(映画評論家)
<1995年10月に中野武蔵野ホールで開催された“桜映画の40年 映像百貨展”チラシ>より
桜映画はしなやかである    岡田秀則(映画研究者)

 短篇ノンフィクションの世界が、戦後の日本映画を豊穣にしたもう一つの顔であることは、今さら繰り返すまでもあるまい。それらの映画は、社会の中でおのおの特定の役割を担い、それを必要とする人たちの前に届けられてゆく。桜映画社の作品はこの半世紀にわたってそのさまざまな場所に姿を現してきた。
「母親プロダクション」と呼ばれた草創期の、衛生や子どもの成長を主なテーマとする社会教育映画。中外製薬など企業とのタッグで生まれた『女王蜂の神秘』などの科学映画や、海外情報の少ない時代に外国の生活者の日常を伝えた一連の海外ロケーション映画。『伊勢型紙』や『色鍋島』など繊細な技巧を見事に視覚化した伝統工芸映画、そして『にっぽん洋食物語』をはじめとする教養篇…。それらの作品の一部は、日本紹介映画として外国の観客も獲得している。さらに岡本忠成、杉井ギサブローらのアート・アニメーションも支えてきた桜映画社の仕事を端的に示す言葉は“しなやかさ”ではないだろうか。名プロデューサー村山英治のもと、岩波映画製作所、日本映画新社といった先行の大手プロダクションとも距離を置いた柔らかな企画性を保ち、同時に松川八洲雄、藤原智子といった優れたドキュメンタリストたちに活躍の場を提供してきた。冒頭に「ノンフィクション」と書いたが、桜映画社は設立当初から教育用の劇映画も送り出しており、近年は長篇劇映画にまで進出している。
これからは、私たちのいる時代を“戦後”から説き起こすことが徐々に難しくなってゆくかも知れない。そんな中で桜映画社は、“戦後”と現在が一続きの時間であることを示してくれる貴重なプロダクションだ。私たちはどう生まれ育ち、どのように日々を暮らしてきたか。桜映画社の作品歴のベースにある生活者の視座は、戦後の日本に育った人間にしっくりとなじむ。そのしなやかで着実な歩みをこれからも見守りたい。

タイムテーブル


NO. 上映作品
1
『さようなら蚊とはえさん』より
1.桜映画のはじまり(計72分)

 
『さようなら蚊とはえさん』(1955年/21分/記録)
   監督:青山通春
 『お姉さんといっしょ』(1956年/51分/劇映画)
  監督:青山通春 原作:筒井敬介
  音楽:芥川也寸志 
  出演:伊吹友木子、浦辺粂子、トニー谷 他

桜映画社の記念すべき第一作『さようなら蚊とはえさん』は当時公衆衛生の面で大きな問題となっていた蚊と蝿の駆除をテーマとした作品。『お姉さんといっしょ』は筒井敬介原作のNHK連続ラジオドラマの映画化で、1957年ベネチア国際映画祭で児童映画展グランプリに輝いた初期桜映画を代表する名作。50年前の東京の姿がここにある。
2
「おやつ」より
2.草創期の桜映画(計82分)

 『おやつ』(1955年/23分/記録)
   監督:西岡豊
 『百人の陽気な女房たち』
  (1955年/30分/劇映画)
   監督:青山通春 出演:戸田春子 他
 『おやじの日曜日』(1959年/29分/劇映画)
   監督:金子精吾 出演:坂本武、桂典子、三遊亭圓生 他

戦後十年当時の栄養問題・しつけの問題に“おやつ”という異色の観点から切り込んだ『おやつ』。地域衛生をテーマに、数々の映画賞に輝く『百人の陽気な女房たち』。家族をテーマにした劇映画ながら1958年の東京の名所を記録的に切り取った『おやじの日曜日』の三作。『おやじの日曜日』では六代目三遊亭圓生が出演し、落語「子はかすがい」を披露している。
3
「風土病との闘い」より
3.初期記録映画:虫特集(計76分)

 『ノミはなぜはねる 自然のしくみ』
  (1960年/22分/記録)
   監督:村山英治 脚本:佐々学
 『鉤虫 十二指腸虫の生態』
  
(1960年/27分/記録)
   監督:杉山正美
 『風土病との闘い』(1962年/27分/記録)
   監督:菊地周 原作:佐々学 編集:亀井文夫 解説:宇野重吉

衛生動物学の権威・佐々学が脚本として参加し、ノミを題材に「科学とは何か?」を明快にとらえた『ノミはなぜはねる』。佐々学原作・亀井文夫編集という豪華メンバーで奄美大島や四国でのフィラリアに切り込んだ『風土病との闘い』。世界で初めて鉤虫の幼虫が皮膚から侵入する様をカメラで捉えた『鉤虫』の三作。
4
「海ッ子山ッ子」より

4.ベネチア映画祭サン・ジョルジュ賞受賞の劇映画(計70分)

 『海ッ子山ッ子』(1958年/70分/劇映画)
   監督:木村荘十二 音楽:林光
   出演:吉田春夫、高田恭朗 他

本作は1959年のベネチア国際映画祭でサン・ジョルジュ賞を受賞し、前年の『ビルマの竪琴』に続いて日本に二年連続受賞という快挙をもたらした作品。戦中は満映でも活躍した木村荘十二(1903-1988)監督による、“海ッ子”と“山ッ子”というある地方の村での子どもたちの対立を描いた少年映画の好編。
5
「生きものと教室の仲間たち」より
5.内藤誠と神山征二郎(計74分)

 
『生きものと教室の仲間たち』
  (1980年/43分/劇映画)
   監督:内藤誠
 
『うれしいときにも涙がでる』
  (1987年/31分/劇映画)
   監督:神山征二郎
   出演:高橋長英、川名誠、二木てるみ 他

東映の「不良番長」シリーズで有名な内藤誠(1936-)監督による『生きものと教室の仲間たち』。本年も『ラストゲーム 最後の早慶戦』で話題となった神山征二郎(1941-)監督の『うれしいときにも涙がでる』の劇映画二作。内藤誠は動物飼育をする学級を情感豊かに描き、神山征二郎は幾度となく自作の舞台としている故郷岐阜を舞台に家族賛歌を謳い上げる。ここにも桜映画のしなやかさがある。
6
「おこんじょうるり」より
6.岡本忠成(計64分)

 
『福児と弓彦 海を渡ってきた牛飼い少年』
 (1990年/20分/アニメ)
   監督:馬場健 脚本:岡本忠成、東川洋子
 『おこんじょうるり』
 
(1982年/25分/アニメ)
   監督:岡本忠成 原作:さねとうあきら
   人形:保坂純子 声の出演:長岡輝子
 
『注文の多い料理店』(1991年/19分/アニメ)
   監督:岡本忠成 原作:宮沢賢治 監修:川本喜八郎

NHK「みんなのうた」のアニメーションなど数多くの短編アニメを生み出した巨人・岡本忠成(1932-1990)による傑作短編集。素朴な土人形に生命を与えた感動的な代表作『おこんじょうるり』。宮沢賢治の原作を幻想的な手書きアニメーションの世界で表現した遺作『注文の多い料理店』。日本に酪農が拡がってゆくさまを描いた『福児と弓彦』の三作。
7
「死者の書」より

7.川本喜八郎(計85分)

 
『序章 ひさかたの天二上(アメフタカミ)』
  (2006年/15分/記録)
   監督:村山正実
 
『死者の書』(2005年/70分/アニメ)
   監督:川本喜八郎 原作:釈迢空(折口信夫)

人形美術家としても知られる世界的なアニメーション作家・川本喜八郎(1925-)による人形アニメーション『死者の書』と、折口信夫による原作の世界を解説した『ひさかたの天二上』の二本立て。『死者の書』は2005年に岩波ホールで公開された後、海外の映画祭で多くの賞を受賞した川本の集大成的作品。
8
「たすけあいの歴史」より
8.杉井ギサブローと大塚康生(計51分)

 
『たすけあいの歴史 生命保険のはじまり』
  (1973年/30分/アニメ)
   監督:杉井ギサブロー 音楽:間宮芳生
   語り:岸田今日子
 『草原の子テングリ』(1977年/21分/アニメ)
   監督:大塚康生 原案:手塚治虫
   原画:椛島義夫 音楽:間宮芳生
   語り:市原悦子

虫プロ、東映動画などで名アニメーターとして活躍した後、『銀河鉄道の夜』『あらしのよるに』などを監督した杉井ギサブロー(1940-)による『たすけあいの歴史』と、東映動画で『ルパン三世』などを制作した名アニメーター・大塚康生(1931-)による、手塚治虫原案の『草原の子テングリ』という、民間企業が企画したPR映画であり、著名なアニメーション作家の監督作品でもある異色短編アニメーション二本立て。
9
「案ズルヨリ産ムガ易シ」より
9.海外合作アニメーションと民俗学映画で生活設計を考える(計75分)

 『青い鳩“Blue Pigeon”』
  (1989年/11分/アニメ)
   監督:杉山卓、
       ホセ・ルイス・ガルシア・アグラス
 『ふたりの調べ“Music for Two”』
  
(1990年/13分/アニメ)
   監督:カルロス・カレラ/杉山卓/J・L・ガルシア・アグラス
 『案ズルヨリ産ムガ易シ』(1972年/25分/記録)
   監督:瀬藤祝 脚本:藤原智子、瀬藤祝 イラスト:佃公彦 
   音楽:三木稔 解説:小沢昭一
 『マイウェイ“My Way”』(1992年/13分/アニメ)
   監督:パユット、杉山卓
 『新しい関係―サラとガスパー―“Best Wishes”』(1992年/13分/アニメ)
   監督:C・カレラ/南波千浪

海外合作アニメーションを取り上げるプログラム。『マイウェイ』はタイとの、それ以外の三作はメキシコとの共同制作。それぞれの国の教材として解説付きで上映されてきた。間に上映する『案ズルヨリ産ムガ易シ』は、小沢昭一の軽妙なナレーションによって“出産”にまつわる民俗学的視点から迫った一編。
10
「ぼうえき」より
10.樋口源一郎(計85分)

 『女王蜂の神秘』(1962年/33分/記録)
   監督:樋口源一郎 
   音楽:間宮芳正 解説:川久保潔
 『カメラとシャッター』(1960年/23分/記録)
   監督:樋口源一郎
 『ぼうえき』(1964年/29分/記録)
   監督:樋口源一郎

桜映画社や三井芸術プロダクションで科学映画・PR映画を制作した後、1970年にシネ・ドキュメントを設立。その後も2006年に99歳で亡くなるまで現役作家であり続けた偉大な映画作家・樋口源一郎(1906-2006)のプログラム。シャッターの歴史からカメラの発展を紐解く『カメラとシャッター』、私たちの生活と貿易の繋がりを示した『ぼうえき』、映画史に燦然と輝く名作『女王蜂の神秘』の三作。
11
「にっぽんチーズものがたり」より
11.松川八洲雄の食の映画(計86分)

 
『和菓子』(1965年/26分/記録)
   監督:村山英治、米内義人、木塚誠一 
   脚本:松川八洲雄、村山英治 解説:久米明
 『にっぽんチーズものがたり』
  (1972年/27分/記録)
   監督:村山正実 脚本:松川八洲雄、村山英治
 『オイシサをつくる−発酵の魅力−』
  (1996年/33分/記録)
   監督:松川八洲雄

『鳥獣戯画』『出雲神楽』などの文化映画や、『不安な質問』『一粒の麦』などの食に関する映画で多く傑作を残した“映像のアルチザン”松川八洲雄(1931-2006)による、食の映画を集めたプログラム。桜映画社の代表作のひとつとも云われる松川の脚本作品『和菓子』、『にっぽんチーズものがたり』と、発酵という豊穣なる時間を切り取った晩年の監督作品『オイシサをつくる』の三作品。
12
「タローの誕生」より
12.藤原智子による親になるための映画(計69分)

 
『はじめての赤ちゃん 生まれて3ヶ月』
  (1971年/ 20分/記録)
   監督:瀬藤祝 脚本:藤原智子
 
『誕生 その歓び』(1986年/28分/記録)
   監督:藤原智子 解説:川久保潔
 
『タローの誕生』(1981年/21分/アニメ)
   監督:白梅進 脚本:藤原智子 声の出演:納屋六郎、鈴木れい子 他

近年も『ベアテの贈りもの』『シロタ家の20世紀』など優れた女性映画を手掛ける藤原智子(1932-)の脚本作・監督作計三作によるプログラム。藤原は桜映画社では出産・育児などに関する映画を多く手掛けており、今回はその中から記録映画2本、アニメーション1本の合計三作品を上映する。藤原らしい丁寧な描写で、明るい未来を展望させる優しい三作品。
13
「歌舞伎の構見」より
13.藤原智子の歌舞伎映画(計78分)

 
『歌舞伎の立廻り』(1981年/34分/記録)
   監督:藤原智子
   出演:市川羽左衛門、中村橋之助
       尾上松鶴  他
 
『歌舞伎の後見』(1992年/44分/記録)
   監督:藤原智子 監修・指導:中村又五郎 
   出演:市川團十郎、澤村宗十朗
       片岡松之助 他

大学で美術史を専攻していた藤原智子は、桜映画社で多くの文化映画の監督作品を残した。その中から本プログラムは歌舞伎映画を取り上げる。豪華役者陣による歌舞伎の立廻りの美を描ききった『歌舞伎の立廻り』と、舞台では目立たず主役を助け芝居をスムーズに進行させる重要な役“後見”にスポットを当てたユニークな作品『歌舞伎の後見』の二作。
14
「狂言・野村万蔵〜技とこころ〜」より

14.桜の文化映画:歌舞伎と狂言(計83分)

 
『歌舞伎の魅力 演技』(1978年/ 33分/記録)
   監督:北條明直
 『狂言・野村万蔵―技とこころ―』
  (1999年/50分/記録)
   監督:村山正実 語り:加賀美幸子

桜映画社の文化映画から、歌舞伎と狂言に関する映画を取り上げたプログラム。数多くの名場面を取り上げ、歌舞伎における演技とは何かを紹介する『歌舞伎の魅力 演技』。人間国宝・七世野村万蔵(1930-)の狂言の魅力、後継者への芸の伝承をつぶさに追った好編『狂言・野村万蔵』の二編。野村万蔵の稽古風景の記録はたいへん貴重である。
15
「世阿弥の能」より
15.桜の文化映画:文楽と能(計83分)

 『文楽への誘い』(1998年/34分/記録)
   監督:村山正実
   出演:竹本住大夫、吉田玉男、吉田蓑助 他
 『世阿弥の能』(1991年/49分/記録)
   監督:村山正実 解説:加賀美幸子、観世栄夫
   出演:浅見真州、友枝昭世、本田光洋
       山本順之 他

桜映画社は数多くの伝統芸能に関する記録映画を制作しており、本プログラムは文楽と能についての作品群。現代を代表する名人たちによる近松門左衛門作の「平家女護島」「曽根崎心中」という二つの舞台を取り上げた『文楽への誘い』。現代も発展し続ける古典演劇・能の基本を確立し高めた世阿弥元清の生涯と足跡を、豊富な資料と代表的な舞台からみる『世阿弥の能』の村山正実(1941-)監督による二作。
16
「伊勢型紙」より
16.桜の文化映画:工芸(計94分)

 
『色鍋島』(1973年/29分/記録)
   監督:村山英治 解説:観世栄夫
   出演:12代目今泉今右衛門 他
 『伊勢型紙』(1977年/30分/記録)
   監督:村山英治 解説:伊藤惣一
 『芹沢_介の美の世界』
  (1984年/35分/記録)
   監督:村山英治 解説:宇野重吉

1970年代の桜映画社は、伝統工芸の記録で他の追随を許さないプロダクションと云われ、『色鍋島』と『伊勢型紙』はその頂点とも云える作品。『色鍋島』は重要無形文化財に指定されている色絵磁器“色鍋島”を、『伊勢型紙』は染めの型紙彫りの職人たちを追った作品。一方『芹沢_介の美の世界』は染色作家・芹沢_介の生涯を追った80年代の作品。三作とも桜映画の創設者・村山英治(1912-2001)が監督した。
17
「茶の湯への招待“Invitation to Tea”」より
17.桜の文化映画:茶の湯(計62分)

 『茶の湯への招待“Invitation to Tea”』
  (1977年/15分/記録)
   
英語ナレーション作品(日本語字幕なし) 
   監督:松川八洲雄 音楽:松村禎三

 『利休の茶』(1988年/47分/記録)
   監督:村山正実 音楽:間宮芳生
   解説:中村吉右衛門

茶道に関する文化映画を集めた本プログラムは、プログラムナンバー11でも登場した松川八洲雄監督による、外国人向けに茶の湯を紹介した『茶の湯への招待』と、千利休(1522-1591)の生涯を追いながら、ゆかりの茶室・露地や、とても貴重な茶道具を映し出す必見の記録映画『利休の茶』の二作。『利休の茶』は表千家・裏千家・武者小路千家の三千家が監修している。
18
「生きている土」より
18.農と食の桜映画(計81分)

 『竜門の人びと』(1968年/40分/記録)
   監督:堀内甲 解説:川久保潔、鈴木敏郎
 『生きている土』(1984年/41分/記録)
   監督:村山正実 音楽:間宮芳生
   解説:草野大悟

『竜門の人びと』は、1964年(昭和39年)度の朝日農業賞を受賞した農業集団・和歌山県粉河町竜門地区を舞台としたミカン栽培を巡るドラマ。松川八洲雄が『不安な質問』で取り上げた自給自足集団“たまごの会”を想起させる。『生きている土』は、生きる土づくりに取り組む農家の自然農法の実践を記録した作品。食の問題に翻弄される今、必見のプログラム。
19
「有明海の干潟漁」より

19.滅び行く日本の習俗から(計66分)

 『奥羽の鷹使い 日本の狩猟習俗』
  (1985年/33分/記録)
   監督:村山正実
 『有明海の干潟漁』(1989年/33分/記録)
   監督:大島善助

当時絶滅寸前とも云われた鷹使いの伝統習俗を記録した貴重な作品『奥羽の鷹使い』と、有明海の伝統漁法を民俗学的視点から追った『有明海の干潟漁』の二作。伝統習俗を追った静かな文化映画のようで、どちらの作品も迫力に満ちた映像が満載されており、記録映画の醍醐味を実感できる。
20
「にっぽん洋食物語」より
20.文明開化の日本(計91分)

 『海は見ていた―貿易百年史―』
  (1968年/28分/記録)
   監督:大内田圭弥
 『明治の洋風建築』(1972年/28分/記録)
   監督:村山英治 解説:久米明
 『にっぽん洋食物語』(1985年/35分/記録)
   監督:山下秀雄 解説:山本圭

文明開化というと長崎・横浜が中心のようだが、『明治の洋風建築』は、全国各地の洋風建築を取り上げ、その工法や歴史を解説する。『にっぽん洋食物語』は、幕末・明治維新後に入ってきた西洋料理が日本独自の洋食に作り上げられるまでの洋食史を愉快に描く。『海は見ていた』は、70年安保闘争に沸く新宿西口広場を追った『地下広場』の監督・大内田圭弥(1930-2003)による、日本貿易史。
21
「ねぶた祭り」より

21.祭(計68分)

 
『秩父の夜祭り 山波の音が聞こえる』
  (1990年/34分/記録)
   監督:村山正実 語り:長岡輝子
 『ねぶた祭り』(1993年/34分/記録)
   監督:村山正実 語り:米倉斉加年

桜映画社は“民俗学映画”とも云える作品群を多く制作しており、本プログラムはその中でも祭りに焦点を絞った作品を二作紹介する。秩父盆地には様々な行事や祭りが今日まで残されてきており、一年の行事全てを結集した秩父最大の“夜祭り”を記録した『秩父の夜祭り』。津軽地方の多くの地域で行われているねぶた祭りの各地の珍しいねぶたを集め、祭りの準備から祭り当日までを追った『ねぶた祭り』。
22
「みちのくの鬼たち―鬼剣舞の里―」より
22.東北地方独自の文化(計73分)

 『津軽のイタコ』
(1994年/37分/記録)
   監督:大島善助 語り:山本圭
 『みちのくの鬼たち―鬼剣舞の里―』
  
(1996年/36分/記録)
   監督:村山正実 語り:加賀美幸子

桜映画の伝統習俗の記録より、東北の二つの特異な習俗“イタコ”と“鬼剣舞”を追った二編。『津軽のイタコ』は、後継者不足によりやがて消え行くであろうイタコの生活と伝統を取り上げた記録映画の怪作。『みちのくの鬼たち』は、岩手県北上川流域衣川村の「川西念仏剣舞」を中心に、農民たちによって伝承されてきた剣舞の歴史と未来を描いた作品。記録映像の重要性を感じるプログラム。
23
「芭蕉布を織る女たち 連帯の手わざ」より
23.沖縄の貴重な記録(計60分)

 『沖縄の母たち』(1970年/30分/記録)
   監督:大島善助 解説:奈良岡朋子
 『芭蕉布を織る女たち 連帯の手わざ』
  
(1981年/30分/記録)
   監督:村山英治 解説:加藤治子

『沖縄の母たち』は、敗戦で基地化された沖縄の働き者の母たちを、アメリカ支配下にあった返還直前の沖縄へのロケーションで収めた貴重な記録。占領下の荒廃した街を生き抜いてきたそのエネルギーを探る。『芭蕉布を織る女たち』は、沖縄で最初に国の重要無形文化財となった“芭蕉布”を織る女たちの記録。芭蕉布の制作は一貫して女の仕事であり、その制作過程は沖縄の風土と深く結びついている。
24
「海女のリャンさん」より
24.在日朝鮮人の母の記録(計90分)

 『海女のリャンさん』(2004年/90分/記録)
   監督:原村政樹

キネマ旬報文化映画ベストテン第一位にも輝く、在日一世・梁義憲(1916-)さんを追った長篇ドキュメンタリー。朝鮮通信使研究家・辛基秀が撮影した1966年頃のフィルムと現在の映像を交えて、一人の女性が差別と貧困の中で、妻として夫を支え、母として子どもたちを育ててきた家族の歴史を紐解く。母と子どものための映画を多く制作しながら、外国との共同制作なども手掛けてきた桜映画のひとつの結晶。
25
「日本の美術工芸」より
25.日本を紹介する(計78分)

 『日本の童謡“Children’s Songs of Japan”』
  (1961年/29分/記録)
   
英語ナレーション作品(日本語字幕なし) 
   監督:木村荘十二、島崎嘉樹
 『日本の年中行事“Festival Japan”』
  
(1969年/21分/記録)
   
英語ナレーション作品(日本語字幕なし) 
   監督:村山英治 音楽:間宮芳生
 『日本の美術工芸−その手わざと美』(1963年/28分/記録)
   監督:村山英治 音楽:間宮芳正
   出演:浜田庄司、富本憲吉、松田権六、棟方志功、前田青邨、香川京子 他

海外へ日本を紹介するために外務省などと製作された作品群を取り上げる。『日本の童謡』は、子どもの間にもたくさんのわらべ歌が生きていた時代の記録。『日本の年中行事』は、年中行事や季節と深く結びついた祭りなど、日本の豊かな表情を収めた作品。『日本の美術工芸』は、7人の美術・工芸作家の当時の制作過程を収めた貴重な記録。
26
「宮武外骨―われ、明治を蒐集せり―」より

26.人物評伝映画:宮武外骨と今西錦司(計91分)

 『宮武外骨―われ、明治を蒐集せり―』
  
(1997年/41分/記録)
   監督:村山正実 解説:佐藤圭
 『今西錦司?自然科学から自然学へ』
  (2000年/50分/記録)
   監督:松川八洲雄

赤瀬川原平による評伝でも有名な明治の反骨ジャーナリスト・宮武外骨(1867-1955)の生涯を描いたドキュメント『宮武外骨』と、偉大な生態学者・今西錦司(1902-1992)の、霊長類研究の創始者としての学問の構築を辿った『今西錦司』の二作。『今西錦司』は日本記録映画史に多大な影響を及ぼした松川八洲雄の監督作品。
27
「アメリカの家庭生活」より
27.海外取材映画:アメリカ編(計91分)

 『アメリカの家庭生活 三部作』
 (1964年/ 91分/記録)
  
第一部「子供のしつけ」(32分)
  第二部「おかあさんの仕事」(28分)
  第三部「アメリカの若い農家」(31分)

    監督:村山英治
    解説:川久保潔、小山田宗徳

桜映画社が手掛けた1964年のエポックメイキングな傑作。当時、プライバシーが侵されることを嫌い、家庭の中にカメラは入れないと云われていた欧米で、第一部ではアイルランド系移民の家庭生活を、第二部ではアメリカの家事の仕方や老後の生活を、第三部ではウィスコンシン州の家族酪農を記録し、当時の貴重な映像として今も親しまれる、日本記録映画史に残る作品である。
28
「フランスはぶどうの村で」より
28.海外取材映画:ヨーロッパ編(計71分)

 『素顔のイギリス』(1967年/46分/記録)
   監督:村山英治 音楽:間宮芳生
   解説:瀧沢修
 『フランスはぶどうの村で』
  
(1967年/25分/記録)
   監督:村山英治 音楽:間宮芳生
   解説:川久保潔

桜映画は『アメリカの家庭生活』以来、海外ロケーションシリーズを敢行し、本プログラムはそのヨーロッパ編。ロンドンの街の素描から、豊かな郊外の家庭生活へと移行し、建築や階級制度にまで切り込む中篇『素顔のイギリス』と、ブルゴーニュ地方のブドウ農家の暮らしを描いた『フランスはぶどうの村で』の二作。両作とも数多くの映画賞を受賞している。
29
「ふたりのマリア」より
29.海外取材映画:アジア・南米編(計66分)

 『アメナ―バングラデシュの女たち』

  (1982年/33分/記録)
   監督:山下秀雄 解説:鈴木瑞穂
 『ふたりのマリア』(1993年/33分/記録)
   監督:吉野篤

海外ロケーションシリーズより、アジアと中南米を舞台とした作品群。貧しい人々のための授産施設を舞台にひとりの女性の目覚めを描いた、山下秀雄(1929-)監督の代表作『アメナ』と、グァテマラの先住民族インディヘナの女性ナナ・マリアと町に住む若い検査技師マリア・テレサという、同じ国に住みながら文化的背景の異なる二人が互いに理解しようとする心の変化を描いた心温まる感動作『ふたりのマリア』の二作。
30
「白血球
その増殖・活性化因子G-CSFを求めて
」より
30.ミクロの探索 医療科学の過去・現在・未来(計73分)

 
『血液 止血とそのしくみ』
  (1962年/26分/記録)
   監督:杉山正美、二口信一 音楽:一柳慧 
   効果:大野松雄 タイトル:粟津潔
   解説:川久保潔
 
『白血球 その増殖・活性化因子G-CSFを求めて』(1991年/27分/記録)
   監督:花崎哲、忍足和彦
 
『幹細胞研究が導く再生医学』(2001年/20分/記録)
   監督:森吉美

血液が凝固する瞬間を初めて顕微鏡撮影で捉えた『血液 止血とそのしくみ』。体内の白血球の動きとはたらきをつぶさに捉えた『白血球』。幹細胞の研究を迫力ある顕微鏡撮影によって紹介する『幹細胞研究が導く再生医学』の三作。一柳慧(1933-)や粟津潔(1929-)といった最先端の芸術家が集った傑作『血液』から、最新科学映画である『幹細胞研究が導く再生医学』まで、科学映画の過去・現在・未来が垣間見えるプログラム。

31
「超高層ビルの雨仕舞い」より
31.現代建築 ビルとタワーとホールを建てる
(計80分)

 『積層工法・超高層編
   ホテル・ニューオータニタワー』

  (1973年/15分/記録)
   監督:村山正実
 『横浜ランドマークタワーの建設』
  (1991年/27分/記録)
   監督:山田和広
 『超高層ビルの雨仕舞い』(1978年/14分/記録)
   監督:川田一郎
 『響 ザ・シンフォニーホール』(1983年/24分/記録)
   監督:土屋信篤 解説:伊藤惣一

高層ビル建築の教科書とも云える『積層工法・超高層編』。ビルとは違った高層建築、タワーの建築を追った『ランドマークタワーの建設』。超高層ビルが雨風にどのように対応するのかを解説した『超高層ビルの雨仕舞い』。音楽ホールの音響設計に焦点を当てた『響』。比較的近年の建築技術に焦点を当てたプログラムである。

*『横浜ランドマークタワーの建設』(27分)は、当初予定しておりました『ランドマークタワーの建設<第一部>』と、第二部と併せた完全版に変更となりました。合計上映時間も80分となります。
32
「急曲線を掘る 
泥水加圧式シールド工法
」より
32.大規模土木技術(計65分)

 『急曲線を掘る 泥水加圧式シールド工法』
  (1987年/18分/記録)
   監督:花崎哲 解説:武田広
 『富士山を測る』(1994年/25分/記録)
   監督:山田和広
 『NATM急速施工
  ―新愛本発電所導水路工事―』

  (1984年/22分/記録)
   監督:花崎哲

文化映画・教育映画という二本柱の影に隠れがちだが、桜映画社は産業映画も数多く製作している。トンネルの急カーブをどのようにつくるかを追った『急曲線を掘る』と、黒部ダムにある新愛本発電所の工事の記録『NATM急速施工』といった二つの巨大工事記録と、「よく考えたらどうやっているの?」という疑問に答える、土木技術の推移を集めたプロジェクト『富士山を測る』の計三作。
33
「ライトのおくりもの」より
33.先人たちの建築(計71分)

 『木組の技 萬満寺本堂建立』
  (1987年/32分/記録)
   監督:堤哲朗
 『ライトのおくりもの 自由学園明日館』
  (2000年/39分/記録)
   監督:原村政樹

建築史家・村松貞次郎をして「モノと道具と人の、これはうらやましいほどの陶酔の姿である。」と言わしめた、千葉・萬満寺本堂建立の記録であり、宮大工を追ったドキュメントでもある『木組の技』と、帝国ホテルの建築で有名な近代建築の父フランク・ロイド・ライト設計による東京・池袋にある自由学園明日館を保存するための解体工事の記録『ライトのおくりもの』の二作。
34
「奄美の森の動物たち」より
34.生命をめぐる科学映画(計77分)

 『奄美の森の動物たち』
  (1975年/27分/記録)
   監督:村山正実
 『土の世界から』(1991年/32分/記録)
   監督:村山正実
 『アポトーシス
   ―細胞の「死」から生命を考える―』

  (1995年/18分/記録)
   監督:花崎哲 解説:江守徹

アマミノクロウサギなどの小動物から土中に生息する虫まで、地球上で奄美の森にしか生息していない貴重な生物たちの記録『奄美の森の動物たち』。健康な土がもつ複雑多面的な機能や構造と、病んで生命を養うことが出来ない土壌を対比させながら、顕微鏡撮影をも駆使して土壌のおもしろさを紹介する『土の世界から』。細胞の死を映像化した奇跡の一作『アポトーシス』。桜の科学映画の傑作群。
35
「隠れたカリキュラムを考える」より
35.女性・更年期・ジェンダーを考える(計92分)

 『それからの季節
 ―自然の時のめぐり 更年期を考える』
 
(1995年/30分/記録)
   監督:松原祐子
 
『中年からの私づくり 4人の女性の場合』
  
(1997年/31分/記録)
   監督:森信潤子
 『隠れたカリキュラムを考える』(1996年/31分/記録)
   監督:秀高賢治

更年期のからだや心の変化と中年からの生き方を考える『それからの季節』『中年からの私づくり』と、子ども時代の無意識に刷込まれる男女の文化的社会的性差を考える『隠れたカリキュラムを考える』の三作。女性たちが自由な生き方と考え方を捉え直すきっかけとなるこれらの作品群は、今まで制作されることの少なかった新ジャンルで桜映画社らしい試み。
36
「八十七歳の青春 
市川房枝生涯を語る
」より

36.女性映画の到達点(計121分)

 
『八十七歳の青春 市川房枝生涯を語る』
  
(1981年/121分/記録)
   監督:村山英治 挿絵:安徳美和子
   解説:米倉斉加年

明治、大正、昭和にわたって、女性の参政権獲得・地位向上のために闘いぬいた市川房枝(1893-1981)の生涯を追った桜映画社初の長編ドキュメンタリー映画。生い立ちから活動、その死までをも描ききった本作は、戦前から市川と交流のあった桜映画の創立者・村山英治が監督。戦後女性運動史を知る貴重な映像である。また、都婦連と各地の県婦連によって設立され、創立当初から“母親プロダクション”と呼ばれた桜映画社による、女性映画の到達点とも云える。

     
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